TG ハイパー・ライブラリアン 制限以上禁止未満と言われた存在

2019年6月26日

【前書き】

 【第7期の歴史7 【代行天使】環境入り ストラク大幅強化の先駆け】の続きとなります。ご注意ください。

 ストラクチャーデッキから【代行天使】という有力アーキタイプが成立し、間もなく環境有数の勢力として名を馳せていきました。その全盛期は2011年を中心に訪れていますが、参入当初においても環境上位クラスの立ち位置をキープしていたデッキです。

 年末に集中して起こるカードプールの変動によって目まぐるしくメタが回る中、そうした流れをさらに加速させる大型ルーキーが姿を見せることになります。

 

ハイパーライブラリアン 第7期最強格の壊れシンクロ

 2010年12月13日、週刊少年ジャンプ付録カードから新たに1種類のカードが誕生しました。遊戯王OCG全体のカードプールは4648種類に増加しています。

 ここで誕生した書籍同梱カード、それは「TG ハイパー・ライブラリアン」と呼ばれるシンクロモンスターでした。

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
このカードがフィールド上に表側表示で存在し、自分または相手がシンクロ召喚に成功した時、自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 レベル5にして攻撃力2400という当時最高峰の打点に加え、自分または相手がシンクロ召喚に成功するたびに1ドローするというシンプルに強力なドロー効果を持っています。同じく縛りのない5シンクロの筆頭としては「A・O・J カタストル」や「マジカル・アンドロイド」などが有名でしたが、このカードに関しては明らかにカードパワーが頭一つ抜けていると言わざるを得ません。

 単純にこれが立っているだけで全てのシンクロモンスターに1ドローのおまけがつくため、シンクロ召喚に長けたデッキでは疑似的なドローエンジンとして運用できます。

 それどころか、これが複数体並べばむしろ逆に手札が増えていくようになるため、シンクロ召喚をすればするほどリソースが回復するという意味不明な状況を生み出すことすら可能です。つまり、これまではリスクの大きさから避けられがちだった全力展開を積極的に狙いやすくなるということであり、誇張でも何でもなく「TG ハイパー・ライブラリアン」1枚のためにデッキコンセプトを切り替える価値があると言われていました。

 実際、このカードの誕生から間もなく「ドッペル・ウォリアー」採用型の【デブリダンディ】が組み上がっており、将来的にはこれが【ジャンクドッペル】成立の決め手にもなっています。文字通りの意味でアーキタイプの中核を担っていた重要なカードであり、まさに「TG ハイパー・ライブラリアン」の存在が2011年環境のシンクロデッキを牽引していたと言っても過言ではないでしょう。

 また、忘れがちですが「TG ハイパー・ライブラリアン」のドロー効果は相手のシンクロ召喚にも反応するため、シンクロデッキの相棒でありながらそのメタにもなるという稀有な性質を持っています。よって5シンクロを立ててターンを返す場合には「A・O・J カタストル」よりも有用(※)であり、以前よりも5シンクロの先出しに意味を持たせやすくなりました。

(※とはいえ、そもそも5シンクロの先出し自体があまり強い動きではなかったため、できるなら他の展開を狙った方がいいということに変わりはありません)

 さらに、こうした効果面の強みに加え、闇属性の魔法使い族という恵まれたカタログスペックの恩恵も意外に侮れないものがあります。

 具体的には、同じく5シンクロの「A・O・J カタストル」に負けず、逆にそちらで対処できない「カオス・ソーサラー」を戦闘破壊でき、さらには「アーカナイト・マジシャン」のシンクロ素材にもなれるなど、地味ながら大きな優位点は少なくありません。特に最後は非常に重要な強みであり、「TG ハイパー・ライブラリアン」を立ててから「フォーミュラ・シンクロン」で計2ドロー、そこから「アーカナイト・マジシャン」に繋いで2枚除去という流れはもはや【ジャンクドッペル】の黄金パターンと言っても過言ではありません。

 その他、こうした健全な使い方以外にも「フィッシュボーグ-ガンナー」や「メンタルマスター」などを絡めた無限ループに悪用されることも多く、コンボパーツとしても高い危険性を発揮していたカードです。普通に使えばパワーカード、悪用すればループ要員と二重の意味で標準以上のスペックを持っていたカードであり、事前情報での「究極の切り札」という触れ込みもあながち的外れとは言えません。

 いずれにしても、これ以降「TG ハイパー・ライブラリアン」がほとんどのシンクロデッキで必須とされるようになったことは間違いなく、氷結界の龍 ブリューナク(エラッタ前)」や「ゴヨウ・ガーディアン(エラッタ前)」以来の壊れシンクロとして名を馳せていくことになります。

 

【ジャンクドッペル】での活躍 クエン酸の相棒

 そんな「TG ハイパー・ライブラリアン」を最も有効活用していたのは、先に触れた通り【ジャンクドッペル】と呼ばれるデッキでした。

 【ジャンクドッペル】は「ジャンク・シンクロン」と「ドッペル・ウォリアー」の2枚をシンクロ召喚ギミックの中核に据えたシンクロデッキの一種であり、実質的には【クイックダンディ】と【デブリダンディ】の両方を包括しているアーキタイプです。型によって【クイックジャンド】や【デブリジャンド】などという形で区別される一方、場合によってはその両方に跨った折衷構成が取られるケースも多く、他のデッキほど明確な仕切りが存在しないという特徴もあります。

 もちろん、従来の【植物シンクロ】ギミックも引き続き搭載されており、まさしく2010年環境のシンクロデッキの集大成とも言えるコンセプトに仕上がっていたと言えるでしょう。

 そんな【ジャンクドッペル】最大の特徴にして強みとなるのは、「5シンクロを先置きしてからのシンクロ展開に特化している」という点をおいて他にありません。

 具体例として、下記にいくつかのパターンを示します。

 

①:「ジャンク・シンクロン」でチューナーを蘇生しつつ、「ドッペル・ウォリアー」を手札から特殊召喚するパターン

 

②:「ジャンク・シンクロン」で「ドッペル・ウォリアー」を蘇生し、「クイック・シンクロン」や「グローアップ・バルブ」などのチューナーを特殊召喚するパターン

 

③:「ジャンク・シンクロン」で「ドッペル・ウォリアー」を蘇生し、「リビングデッドの呼び声」や「リミット・リバース」でチューナーを蘇生するパターン(またはその逆)

 

④:「ダンディライオン」でトークンを出しつつ「ダンディライオン」をコストに「スポーア」を蘇生し、チューナーを通常召喚するパターン

 

 いずれも「TG ハイパー・ライブラリアン」を先置きしつつ更なるシンクロ召喚を行えるため、ディスアドバンテージを軽減しながらの盤面展開が可能です。この動きを安定して狙うことこそが【ジャンクドッペル】のメインコンセプトの一つであり、究極的には「TG ハイパー・ライブラリアン」をいかに上手く使いこなすかを追求したデッキであったとも言えます。

 また、将来的には「シューティング・クェーサー・ドラゴン」のシンクロ召喚ルートの土台としても活躍するなど、【ジャンクドッペル】における「TG ハイパー・ライブラリアン」の重要度は計り知れません。

 キーカードを通り越して「これがないとデッキが成り立たない」というレベルのカードであり、まさしくアーキタイプの大黒柱としての地位を築き上げていたのではないでしょうか。

 

そして制限カードへ 禁止カード行きの噂も

 こうした環境での活躍の結果、「TG ハイパー・ライブラリアン」は2011年9月の改訂をもって制限カード指定を下されることになります。

 上記の【ジャンクドッペル】が2011年3月以降に流行していたことを踏まえれば驚くべき対応の早さであり、それだけ当時の環境における「TG ハイパー・ライブラリアン」の脅威が大きなものだったことが窺えます。また、特に相性の良かった「フォーミュラ・シンクロン」も同じタイミングで制限カード行きとなるなど、間接的な圧力という意味でも厳しめの対処が入っていました。

 しかし、この規制以降の環境でも「TG ハイパー・ライブラリアン」の使用率が落ちることはなく、引き続きエクストラの必須枠として定着することになります。

 なぜなら、よほどシンクロ召喚に特化したデッキでもなければ「TG ハイパー・ライブラリアン」は1枚用意しておけば十分なタイプのカードであり、制限カード指定を受けたところでほとんど支障がなかったからです。

 つまり極端な話、多くのデッキにとっては「TG ハイパー・ライブラリアン」は制限カードだろうと無制限カードだろうと同じような使用感にしかならず、事実上は規制など無いも同然の状況と言っても過言ではありませんでした。それどころか、当時のシンクロデッキの筆頭であった【ジャンクドッペル】ですら「TG ハイパー・ライブラリアン」は1体置ければ十分な仕事が期待できたため、2体目は無くても何とかなることが多かった(※)という背景も存在します。

(※どちらかと言うと「フォーミュラ・シンクロン」の規制の方が致命的でした)

 そのため、制限カード指定だけでは規制の意味が薄いと揶揄されることも少なくなく、いずれは禁止カード行きになるのではないかという噂が囁かれることもありました。実際、一時期はジャンプ付録カードでありながら価格が乱高下を繰り返しており、ちょっとした株のようになっていたこともあったほどです。

 こうした宙ぶらりんの状況は以後なんと8年弱に渡って続き、その間はいわゆる「制限以上禁止未満」とでも言うべき存在として扱われていました。上述の通り、1枚用意しておけば十分なタイプのカードでありながら、1枚使えるだけでも危険であり、しかし禁止にするほどではないというギリギリのバランス(※)を保っていたことがその理由です。

(※現在のカードプールにおける「水晶機巧-ハリファイバー」に近いポジションだったと言えば分かりやすいかもしれません)

 いずれにしても、「TG ハイパー・ライブラリアン」というカードが良くも悪くも後期シンクロ時代の陣頭に立っていたことは間違いなく、これ以降エクシーズ召喚とシンクロ召喚が混在する「白黒環境」が訪れたのもこのカードの影響によるところが大きかったのではないでしょうか。

 

【まとめ】

 「TG ハイパー・ライブラリアン」についての話は以上です。

 素材縛りなし、シンプルに強力なドロー効果、ステータスも優秀と三拍子揃ったパワーカードであり、誕生直後からトーナメントシーンで猛威を振るっていくことになります。この頃は既に素材縛りのないシンクロモンスターの危険性は十分に浸透していたはずですが、その上での調整ミスは流石に開発側の怠慢が過ぎると言われても仕方がない話です。

 とはいえ、そうした瑕疵がありつつも現在に至るまでシンクロデッキの要として使われ続けているカードでもあり、今後もシンクロ界隈の第一線で活躍していくことは間違いない存在でしょう。

 ここまで目を通していただき、ありがとうございます。

 

Posted by 遊史