【魔轟神】が環境上位だった頃 2010年環境における奮闘

2019年3月28日

【前書き】

 【第6期の歴史23 「光の援軍」の来日 【ライトロード】をトップメタに押し上げたカード】の続きとなります。ご注意ください。

 「光の援軍」の来日によって【ライトロード】が大幅に強化され、間もなく環境屈指のトップデッキとして名を馳せていきました。この対策として【次元エアトス】を筆頭とする各種メタデッキが試されていっていますが、それでも環境全体の傾向としては【ライトロード】優勢の流れは動いていません。

 文字通りの「光の援軍」によってメタゲームが光に染まる中、続く10月にそうした環境を少なからず揺るがすカード群が参入を決めることになります。

 

魔轟神獣 【魔轟神】の(目が怖い)ペット達

 2009年10月1日、デュエルターミナル第7弾である「DUEL TERMINAL -ジェネクスの進撃!!-」の稼働が開始されました。新たに30種類のカードが誕生し、遊戯王OCG全体のカードプールは3984種類に増加しています。

 第6期のDTシリーズに散見される塩弾の一つであり、全体的に地味なカード群で新規枠が埋まってしまっていたタイトルです。汎用性の高いカードがほぼ収録されていないどころか、専用サポートとしても微妙な顔触れが大半を占めていたことは否めません。

 しかし、逆にごく一部に限って言えば魅力的な収録枠もあり、具体的には【魔轟神獣】シリーズの参入は多くのプレイヤーに注目されていたのではないでしょうか。

このカードが手札から墓地へ捨てられた時、このカードを自分フィールド上に特殊召喚する。

 上記は【魔轟神獣】を代表するカードの1枚、「魔轟神獣ケルベラル」のテキストです。手札から捨てられた場合に自身を特殊召喚する強制効果を持っており、さらにチューナーに属しているためシンクロ召喚のサポートをこなすことができます。

 同様に、【魔轟神獣】には手札コストに関する効果を持ったモンスターが多数属しており、名前の通りデザイン段階から【魔轟神】とシナジーすることを意図して生み出されていたことは間違いありません。というより、そもそもこれ以前の【魔轟神】には実用的なチューナーが「魔轟神レイヴン」「魔轟神クシャノ」程度しかいなかったため、【魔轟神獣】の誕生によってようやくシンクロデッキとしての体裁が整ったとも言えるでしょう。

 この時に現れていた【魔轟神獣】モンスターは下記の通りとなります。

魔轟神獣チャワ
魔轟神獣キャシー
魔轟神獣ケルベラル
魔轟神獣ガナシア
魔轟神獣ノズチ

 特に優秀なのは「魔轟神獣チャワ」「魔轟神獣ケルベラル」「魔轟神獣ガナシア」の3枚であり、当時の【魔轟神】ではどのような型であれ必須カードと言われていたほどの存在です。残りの2枚は上記3枚に比べれば若干見劣りする性能ですが、決して弱いというわけではなく、少なくとも【魔轟神】カテゴリの中では有用な部類(※)に入ります。

(※【魔轟神】に限らず、当時のDT出身カテゴリは微妙な性能のカードから使い道が分からないレベルのカードまで、悪い方向に種類が豊富なカード群と揶揄されていました)

 

【魔轟神】環境入り レイジオン最強伝説

 何にせよ、【魔轟神獣】の参入によって【魔轟神】が大きく強化されたことは間違いなく、次第にトーナメントシーンにも顔を出すようになっていっています。

 この躍進の強い後押しとなったのは、【魔轟神】シンクロの一角である「魔轟神レイジオン」の存在でした。

星5/光属性/悪魔族/攻2300/守1800
「魔轟神」と名のついたチューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
自分の手札が1枚以下の場合、このカードがシンクロ召喚に成功した時、自分の手札が2枚になるまでデッキからカードをドローできる。

 言わずと知れた【魔轟神】最強のエースモンスターであり、むしろこのカードの存在こそが【魔轟神】を組む理由になると言っても過言ではないでしょう。それどころか、これを出すためだけに他デッキが【魔轟神】を出張する(※)ケースすらあるなど、第6期当時はもちろん現在の水準に照らし合わせても非常に優秀なカードです。

(※有名どころの出張先としては、2010年3月環境の【レスキューシンクロ】などが挙げられます)

 とはいえ、「魔轟神レイジオン」が誕生した時点のカードプールでは肝心の【魔轟神】自体が貧弱すぎたため、これまでの【魔轟神】は長らく宝の持ち腐れのような状況に置かれていました。逆に言えば、【魔轟神】というカテゴリは展開力の貧弱さという問題を除けばおおむね完成に至っていたということでもあり、【魔轟神獣】の誕生がそのまま環境入りに繋がったというのが大まかな事の経緯です。

 実際、【魔轟神】の展開力は第6期出身のデッキの中でも上位にランクインしており、2009年9月2010年3月環境の中ではトップクラスと言っても過言ではありません。やっていることは「手札を消費してシンクロ素材を展開する」「レイジオンを立てて手札を回復する(※)」と非常にシンプルですが、シンプルゆえに強力であり、上手く回った時の爆発力は凄まじいものがあります。

(※その際、手札の魔法・罠カードを場に伏せることで更なるリソースの貯金も可能です)

 その他、THE トリッキー」と「魔轟神獣ケルベラル」による「アーカナイト・マジシャン」のシンクロ召喚ギミックや、「魔轟神獣ユニコール」とフリーチェーンの手札調整手段を用いたソフトロックコンボ、また「エンシェント・ホーリー・ワイバーン」を絡めたワンキルルートなど、この時期の【魔轟神】だけが持っていた固有武器は少なくありません。流石に当時の環境トップである【ライトロード】を押しのけるほどの勢いはありませんでしたが、【剣闘獣】や【BF】などのメタ上位の面々には決して負けていなかったデッキです。

 

手札事故が弱点 他デッキとの複合でカバー

 とはいえ、そんな【魔轟神】にも当然いくつかの弱点が存在していたことは事実です。

 最大のウィークポイントはもちろん手札事故であり、この問題を解決できなかったからこそ当時の【魔轟神】は環境トップを逃してしまったと言っても過言ではないでしょう。単純な話、【魔轟神】は「手札を捨てるカード」と「手札から捨てられることでメリットを生むカード」の2種類が揃わなければまともに身動きが取れないため、おおむね3ゲームに1回は事故を起こすものと覚悟しておく必要があります。

 また、それに伴って相手の妨害にも非常に弱く、「D.D.クロウ」1枚で全てが瓦解してしまうことも少なくありません。特に致命的なのは「魔轟神レイジオン」に対するカウンター(※)であり、これを立てる段階で積極的に手札を使い切る都合上、こうなると一気に敗色濃厚の苦境へと陥ります。

(※一応、天敵である「神の宣告」は直前の2009年9月の改訂で制限行きになっていましたが、特にミラーマッチでは「天罰」との遭遇率が高かったため、カウンターケアは必須でした)

 こうした背景もあり、当時の【魔轟神】は「相手のバックを全て剥がしてからでなければ安心して動けない」とまで言われており、回った時の爆発力からは想像もできないほど線の細いデッキだったことは否めません。

 そのため、その弱点を補う目的で他デッキとの複合が試されることも多く、これ以降は様々な【魔轟神】の型が考案されていくことになります。特に有名だったのは【墓守】ギミックを足して安定感を増した【墓守魔轟神】であり、盤面維持はもちろんのこと、レベル4の魔法使い族を安定して残すことで「魔轟神レイジオン」や「アーカナイト・マジシャン」を立てやすくなるなど、純構築にはない独自の強みを持っていました。

 

【次元エアトス】や【次元剣闘獣】が辛かった時代

 一方、こうしたデッキレベルの課題とは別に、メタゲームにおける立ち位置の難しさという問題も付いて回ります。

 以前の記事でも触れた通り、当時の環境は【ライトロード】の流行に伴って【次元エアトス】を筆頭とするメタデッキが勢力を増しており、これらを無視してトーナメントシーンを生き抜くことは不可能な状況にありました。

 翻って【魔轟神】は明らかに墓地に依存したカテゴリであり、これを潰されると相当苦しい状況に追いやられてしまうことは避けられません。特に【次元エアトス】や【次元剣闘獣】はキルターンもかなり早く、最悪でも3~4ターン以内に対応できなければそのまま殴り切られてしまうケースがほとんどです。

 一方で、この頃の【魔轟神】は大抵メインから「サンダー・ブレイク」を3積みしており、さらに構築によっては「砂塵の大竜巻」や「魔宮の賄賂」などを搭載することも多かったため、メタデッキに対しても一定の耐性は備えていると言われていました。流石に【ライトロード】ほど高い耐性を持っていたわけではありませんが、見た目ほど極端な相性差が付いていたわけではありません。

 とはいえ、やはり現実問題として【次元】系相手にマッチ勝率5割以上をキープするのは簡単なことではなく、この時期に【魔轟神】を握るにはそれなりのプレイヤースキルを要求されたことは確かです。

 逆に言えば、そうした逆風の状況下であっても環境上位には入っていたということでもあり、この時代こそが【魔轟神】の全盛期だったことは間違いないのではないでしょうか。

 

【まとめ】

 【魔轟神】についての話は以上です。

 カテゴリ成立直後はカードプールが満足に揃っておらず、長らく不遇の立ち位置にあったデッキですが、【魔轟神獣】の参戦を受けて一気に飛躍を遂げることになります。反面、弱点の多さやメタゲームの都合から環境トップには手が届かず、現役時代の大半を向かい風の中で過ごしたデッキでもありました。

 しかし、それでも上手く噛み合った時の爆発力は病み付きになるものがあり、今なお一定のファンを持っている人気の高いカテゴリです。

 ここまで目を通していただき、ありがとうございます。

 

Posted by 遊史