ファイバーポッド 狂気のリセット効果
・前書き
・遊戯王版ラピュタ ファイバーポッド
・メタゲームへの影響
・その他のパワーカード
・王宮の弾圧 エラッタ前は弱かったカード
・極太注射 撲殺天使リリー
・その他の優良カード達 天空騎士パーシアスほか
・当時の環境 2001年11月29日
・まとめ
【前書き】
【第2期の歴史37 【ラストバトル!】の成立 はびこる先攻1キル】の続きとなります。特に、この記事では前中後編の後編の話題を取り扱っています。ご注意ください。
【遊戯王版ラピュタ ファイバーポッド】
前記事、前々記事で触れた「八汰烏」「ラストバトル!」は、それぞれが一つのデッキを生み出すほどの影響力を持っていました。
「ファイバーポッド」はそうした方向性の影響力を発揮するタイプのカードではありませんが、その凶悪さという面では勝るとも劣りません。単純にパワーカードという評価では到底収まり切らず、やはり永年禁止カードにふさわしい威圧感を放っています。
リバース:お互いにフィールド上カードと手札と墓地のカードをデッキと合わせてシャッフルする。その後デッキからカードを5枚ドローする。
上記は「ファイバーポッド」のテキストです。手札・フィールド・墓地のカードを全てデッキに戻し、お互いに5枚ドローするという効果となります。
一言で結論を申し上げれば、「サイバーポッド」と双璧を成す遊戯王最強クラスのリバースモンスターです。さながらデュエルを最初からやり直すかのような強烈なリセット効果を持っており、そのカードパワーはもはや正気の沙汰ではありません。
ライフや除外ゾーン、EXデッキには干渉できませんが、ライフはともかく、除外ゾーンやEXデッキが明確な意味を持つようになるのは第9期以降の出来事です。除外関係の効果を持つカードも「抹殺の使徒」など一部に限られていたため、少なくともこのカードの現役時代に限って言えば「ライフ以外をデュエル開始時に戻す効果」と解釈しても語弊はないでしょう。
リセットカードとしては効力、軽さともに間違いなく最高の性能であり、どれだけ不利な状況であってもこれ1枚で「無かったことに」できます。その仕切り直し性能は反則的と言うほかありませんが、実は普通に使っても間違いなく反則的なカードです。
例えば、相手ターンのバトルフェイズに「ファイバーポッド」が攻撃を受けてリバースした場合のことを考えます。
ダメージステップ中の盤面リセットに対処するのは通常困難であるため、ほとんどの状況ではそのままメインフェイズ2に入ることになるでしょう。その場合、相手に訪れるのは「ドローフェイズのない先攻1ターン目」という状況です。既にモンスターを召喚していた場合、さらに「召喚権もない」というハンデが追加されます。
つまり、一見平等に思えるリセット効果ですが、実質的には相手が1枚分損をしていることになります。召喚権を消費していた場合は更に明確な不利がつくため、基本的にどのような状況でリセット効果が発動しても損にはなりません。
もちろん、明らかに自分が有利な状況で発動すれば相対的に損をしてしまいますが、その場合はそもそも「ファイバーポッド」をセットしなければ済むだけです。プレイングによってカバーできる範囲の弱みであり、これも欠点とはならないでしょう。
自分のターンにリバースした場合も基本的に自分が有利となります。
上述の通り、アドバンテージ面では1枚分の損となりますが、こちらは「相手フィールドががら空きの状態でバトルフェイズを迎えられる」というメリットがあるからです。召喚権を残していればほぼ確実にダイレクトアタックを決められるため、引き次第ではそのままゲームエンドに持ち込めるでしょう。
メタゲームへの影響
このように、性能自体も強烈なリバースモンスターですが、実はこの時期はメタゲームにおいても非常に重要な立ち位置を占めていました。
当時の環境ではパワーカードが飽和していた関係上、一旦アド差がついてからの挽回は非常に困難でした。とりわけ「八汰烏」の存在はこうしたマウントゲームの成立を助長し、「有利なプレイヤーほど有利になる」という硬直したゲームバランスを生み出していたほどです。
しかし、「ファイバーポッド」の誕生によって上記のゲームバランスに変化が訪れます。どれほど有利な状況であっても「ファイバーポッド」1枚で覆されかねないという事実が生まれたため、「セットモンスターを警戒して八汰ロック狙いを見送る」などの選択を取らざるを得ないケースが発生するようになりました。
総評としましては、純粋なカードパワー、そしてメタゲームにおける需要の双方ともに非の打ち所のないカードです。性質上、地雷的な運用方法が最も効果的となるため、リバースモンスターとしては異例の3積み推奨カードとなるでしょう。
もちろん、サーチャーによるサーチにも対応しており、ピン挿しでも機能する強みがあります。ただし、その場合は相手に「ファイバーポッド」の存在を知られてしまうため、除去カードで狙い打ちにされてしまう、あるいは召喚権を残しておくなどの対策を取られてしまう可能性が高いことは留意しておかなければなりません。
とはいえ、分かっていても回避できないという状況も少なくなく、やはり切り返し札としての性能は飛び抜けているカードです。
補足となりますが、墓地のカードをデッキに戻すことに着目し、墓地に落ちた「封印されしエクゾディア」を回収することにも利用できます。「ファイバーポッド」の利用法としては非常に穏やかな使い方ですが、【宝札エクゾディア】にとっては死活問題でもあったため、隠し味として1枚挿されるケースは意外と珍しくなかったようです。
【その他のパワーカード】
「八汰烏」「ラストバトル!」「ファイバーポッド」などのそうそうたる面々には敵いませんが、一般的な優良カードの域を超えた性能を持つカードも多数現れていました。いずれも他のパック収録であればトップレアに輝いていてもおかしくないカードであり、当パックの異様なカードパワーのインフレが見て取れる一幕です。
王宮の弾圧 エラッタ前は弱かったカード
1枚目は「王宮の弾圧(エラッタ前)」という永続罠カードです。
このカードがフィールド上に存在する限り、お互いのプレイヤーは800ライフ払う事で特殊召喚を無効にし、そのモンスターを破壊する事ができる。
モンスターが特殊召喚される際に、800ライフを払うことでそれを無効にする効果を持っています。ただし、自分だけではなく相手も使用可能であるため、使い方には注意が必要です。
もっとも、この時のものはエラッタ前の効果となっており、使い方を考える以前に「使い道がない」カードでもあったのは事実です。現在は「特殊召喚を含む効果」全般を無効化できる裁定ですが、この時期は「チェーンブロックを作らない特殊召喚」にしか対応しておらず、対応範囲は「魔導ギガサイバー」などごく一部に限られていました。
このカードの強みの大半が死んでいる状況であり、メタカードとしてもほとんど価値がありません。そのため、この時期は全く注目されることはなく、活躍の機会は先の時代に持ち越す格好となります。
極太注射 撲殺天使リリー
2枚目は「お注射天使リリー」です。
自分・相手の戦闘ダメージ計算時のみ効果発動可能。2000ライフを払う事で、このカードの攻撃力はダメージ計算時のみ3000ポイントアップする。
通常時は攻撃力400の弱小モンスターに過ぎないカードですが、ダメージステップに膨大なライフを払うことで大幅に打点を上昇させる効果を持っています。単体で攻撃力3400に到達できるというのは下級モンスターの域を超越しており、控えめに申し上げて尋常ではありません。
コストは決して軽くはないものの、直接的なディスアドバンテージには繋がらず、発動条件的にも状況に左右されにくい効果です。また、単純に2000のライフコストで3000の火力が得られるため、都合1000ポイント分のライフ・アドバンテージが稼げます。結果的には相手が受ける被害の方が大きくなる以上、決して悪い取引ではないでしょう。
素のステータスは戦闘に耐えうる数値ではないことから、実質的には「ダーク・エルフ」のようなデメリットアタッカーに近い性質を持つカードです。事実上は最上級モンスターすら上回る攻撃力を持つなど、デメリットアタッカーとしても非常識な打点ですが、上述の通り一度の戦闘ごとにライフを高速で消費してしまう欠点があります。
ライフを払わなければ呆気なく戦闘破壊されてしまうため、ライフコストの支払いは半ば強制となるでしょう。言い換えれば、この「お注射天使リリー」はどんなモンスターにも負けない戦闘能力を誇る反面、どんなモンスター相手にも全力を出さなければならないという制約がついて回るということです。
もっとも、それは物量で攻めなければ倒せないということの裏返しでもあるため、相手にとっても相応の負担となります。戦闘ダメージも馬鹿にならない以上、可能であれば効果による除去を選択してくるでしょう。
逆に言えば、その場合は「戦闘破壊でアドバンテージを取ったのち、除去カードと1:1交換をしている」格好となります。アドバンテージ的に考えれば非常に「美味しい」取引であり、下級アタッカーの仕事としては最高クラスの働きです。戦闘破壊した相手が「人造人間-サイコ・ショッカー」などであった場合、それこそ120点の働きと言えるのではないでしょうか。
総評としましては、同じくパンプアップ効果を持つ「魂を喰らう者 バズー」が可哀想になるほどの性能であり、場合によっては「ダーク・ヒーロー ゾンバイア」などの優秀なデメリットアタッカーすら追いやりかねない存在です。
現実的には、やはり多用できるタイプの効果ではないため、完全にこれ1枚に頼り切るのは危険でしょう。しかし、それを踏まえてもなお非常に強烈な効果であり、【グッドスタッフ】の新兵器となりうるカードであることは疑いようもありません。
その他の優良カード達 天空騎士パーシアスほか
これらの他にも、「天空騎士パーシアス」や「阿修羅」などの優良アタッカーを始めとして、召喚反応罠の新境地を築いた「奈落の落とし穴」、異色のコントロール変更カードである「強制転移」といった非常に優秀なカードが収録されていました。
いずれも環境クラスのカードパワーを持った精鋭ばかりであり、ドリームチームを体現する【グッドスタッフ】にも入りうるポテンシャルを秘めています。流石に前述の凶悪カードほどの存在感はありませんでしたが、それぞれが当時の環境を堅実に支えていたカード達です。
また、遊戯王OCGのルール的な混乱に巻き込まれた「リーフ・フェアリー」「ドル・ドラ」なども上記とは別の方面で影響力を持っていたと言えるでしょう。とりわけ前者は一時期【ギルファーデーモン1キル】の成立を招いたほどであり、誤解釈が解けたのちもしばしば話題に取り上げられていました。
最後に、「鉄の騎士 ギア・フリード」とシナジーを形成する「盗人の煙玉」「鎖付き爆弾」の2枚も見逃せません。汎用性に優れているとは言えないカードではありますが、噛み合った時の強さは中々侮れず、やがては【ギア・フリード】としてコンセプトを確立させたほどのカードです。
まさに粒ぞろいとも言える面々であり、「Mythological Age -蘇りし魂-」が悪名だけのパックではなかったことをはっきりと証明していたのではないでしょうか。
【当時の環境 2001年11月29日】
【第2期の歴史36 暗黒期到来 八汰烏の脅威と【グッドスタッフ】の最期】以降の前中後編の記事内容を総括した項目となっています。ご注意ください。
「八汰烏」という遊戯王史上最悪のカードが誕生し、【グッドスタッフ】はまたたく間に【八汰ロック】に汚染されていきました。同時に「ファイバーポッド」という極悪リセットカードを獲得してしまった影響もあり、以前までの真っ当なビートダウンデッキの面影はほぼ消滅しています。
デッキの基盤自体は【グッドスタッフ】とある程度共通していたため、見方によっては【グッドスタッフ】だと言い張れなくもない状態だったのかもしれませんが、やはり実質的には【八汰ロック】以外の何物でもなかったことは否定できません。いずれにしてもデッキパワーは一般的なトップメタの範疇を超えており、暗黒期指定もやむなしの状況です。
「ラストバトル!」が与えた被害も甚大で、「昇霊術師 ジョウゲン」や「異星の最終戦士」を取り込んで【ラストバトル!】として成立しています。例のごとく先攻1キルデッキであり、こちらもまた暗黒期指定にふさわしい凶悪さを孕んでいました。
他の先攻1キルデッキにない強みとして、「デビル・フランケン」のギミックによりビートダウンでもそこそこまともに戦うこともできる、という特徴も存在します。また、盤面の展開も最低限で済むため妨害を受けても立て直しが利きやすく、コンボパーツの少なさからコンセプトキルも受けにくい、といった部分も優位点に含まれるでしょう。
反面、ライフ調整が必須という難題も抱えており、結局は一長一短の関係です。何を重視するかにもよりますが、最終的には好みの問題となってくるのではないでしょうか。
結論としましては、【八汰ロック】【宝札エクゾディア】【宝札ビッグバン】【ラストバトル!】など、壮絶な顔触れが猛威を振るう地獄のような環境が訪れている格好です。
なんと4デッキ中3デッキが先攻1キルデッキとなっており、残りもビートダウンの皮を被った極悪ドローロックデッキです。まさしく狂気的な環境であり、カードゲームとしてはあまりにも常軌を逸していると言うほかありません。
ちなみに、ルール的な誤解釈が原因となり、少しの間は【ギルファーデーモン1キル】も騒がれていました。「リーフ・フェアリー」と「暗黒魔族ギルファー・デーモン」の無限ループコンボを搭載した先攻1キルデッキですが、実際にはタイミングを逃すため成立しないコンボです。
流石にトーナメントレベルで問題となることはありませんでしたが、多数のプレイヤーを騒動に巻き込んだことは事実であり、こちらもまた形を変えた暗黒時代と言えるのではないでしょうか。
【まとめ】
前記事、前々記事と合わせて、「Mythological Age -蘇りし魂-」販売によって起こった出来事は以上です。
率直に申し上げて地獄絵図であり、もはやまともなゲームバランスは成り立たないという事態に陥っています。とりわけ「八汰烏」は現役期間も非常に長く、第3期終盤に禁止カード指定を受けるまで暴れ続けている始末です。
先攻1キルなどと比べて外見こそ地味ですが、総合力ではそれらをも上回る脅威を振り撒いていたのではないでしょうか。
ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
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