蝶の短剣エルマが弱い理由 禁止カード=凶悪コンボという勘違い

2021年6月4日

【前書き】

 「蝶の短剣-エルマ」というカードがあります。

蝶の短剣-エルマ(ちょうのたんけん-えるま)

装備魔法
装備モンスターの攻撃力は300ポイントアップする。
モンスターに装備されているこのカードが破壊されて墓地に送られた時、このカードを持ち主の手札に戻す事ができる。

 遊戯王における無限ループ系カードの開祖であり、遊戯王プレイヤーにはもちろん、そうでない方にもよく知られている非常に悪名高い禁止カードです。実際に過去環境においては【エルマ1キル】のキーカードとして誕生直後から猛威を振るい(※)、その後禁止カード行きとなってからは一度として現役復帰していません。

(※詳しくは下記の記事で解説しています)

 また、そうして悪用された過去を持つことで世間的にも強く危険視されており、今後これが現役復帰することは恐らくないと考えられているカードでもあります。実際、カードプールが広がったことで当時以上にコンボ利用が容易くなったことは事実ではあり、その点だけで判断すれば「蝶の短剣-エルマ」は禁止カード相当の凶悪さを秘めていると言えなくはありません。

 しかしながら、実際のところ果たして「蝶の短剣-エルマ」が本当に凶悪なのかと問われると、少なくとも現役プレイヤー視点では少々違和感を覚える話であることは否めません。ネット上を確認する限りでは、「蝶の短剣-エルマ」を過剰に凶悪カード扱いしているネット記事や動画コンテンツなども時折見かけはしますが、ワンキルや無限ループを形成するという事実そのものが必ずしもコンボの強さを保証するとは限らないからです。

 この記事では、「蝶の短剣-エルマ」が本当に禁止カード相当の危険性を持つのかを考察していきます。

 

【エルマワンキル】はなぜ弱いのか

 まずは結論から言ってしまいますが、蝶の短剣-エルマ」は非常に弱いカードです。

 これは汎用カードとして評価しているわけではなく、そもそもコンボカードとして非常に弱いということを意味しています。つまり「禁止カードにしては弱い」ですらなく「そもそも単純に弱い」ということであり、誤解を恐れずに言ってしまえば仮に無制限カードに復帰したとしても危険性はゼロに近いと断言してしまっていいでしょう。

 これは一見とんでもない話に聞こえるかもしれませんが、最後まで記事を読めばどうしてそのような結論に至るのかが分かります。

 理由は大きく分けて3つあり、そしてそのどれもが致命的です。

 

①:自分のカードをターン1制限なく破壊できるカードがほぼなく、実は悪用が非常に困難

 

②:コンボに必要なカードが多すぎて実用性がない(初動枚数、枠消費枚数の両方含め)

 

③:そもそもOCGでも普通に上位互換のコンボがいくらでも組める

 

 ①に関しては以前の記事(※)でも解説しているためざっくりと終わらせますが、「蝶の短剣-エルマ」はその性質上、コンボ利用のためには「自分がコントロールするカードを無条件で、かつターン1制限なく破壊し続けられるカード」を必要とします。これがどれだけ荒唐無稽なことを言っているのかは遊戯王経験者には一目瞭然で、そんな危険すぎるカードはまず存在しません。もちろん今後そのような無茶苦茶な壊れカードがデザインされることも(開発側がよほど血迷わない限り)絶対にあり得ないはずです。

(※詳しくは下記の記事をご覧ください)

 唯一の例外が「鉄の騎士 ギア・フリード」であり、このカードの存在こそが「蝶の短剣-エルマ」に辛うじて存在意義を与えていると言えるでしょう。つまり蝶の短剣-エルマ」は極悪コンボカードと言われながらも20年間に渡ってコンボの利用法が一切増えていないことになり、これは他のコンボカードと比較しても相当に応用性が無さすぎる性能です。

 そのため、純粋なワンキルパーツとしての悪用適正は世間的なイメージに反してかなり低く、「悪用されたら危険」という主張に対しては「プリーステス・オーム」や「サクリファイス・ロータス」辺りのカードの方がよほど危険性が高い、とあっさり反論できてしまいます。

 この反論としてよく言われるのが「ギアフリードやエルマのサーチ・リクルート手段が増えている≒凶悪性も上がっている」という主張ですが、ここで絡んでくるのが②の理由である「コンボに必要なカードが多すぎて実用性がない(初動枚数、枠消費枚数の両方含め)」という欠点です。

 

サンプルデッキレシピ【2021年版エルマワンキル】

 ②の理由について詳しく解説する前に、ひとまず下記にデッキリストを示します。

 

サンプルデッキレシピ(2021年4月制限+エルマ)
モンスターカード(25枚)
×3枚 焔聖騎士-リナルド
幻影騎士団サイレントブーツ
幻影騎士団ティアースケイル
魔界発現世行きデスガイド
×2枚 サーヴァント・オブ・エンディミオン
幻影騎士団ダスティローブ
×1枚 サイコトラッカー
鉄の騎士 ギア・フリード
電脳堺姫-娘々
彼岸の悪鬼 ガトルホッグ
彼岸の悪鬼 グラバースニッチ
幻影騎士団ラギッドグローブ
魔犬オクトロス
マジックアブソーバー
闇霊神オブルミラージュ
魔法カード(13枚)
×3枚 『焔聖剣-デュランダル』
魔力統轄
×2枚 緊急テレポート
×1枚 自律行動ユニット
増援
蝶の短剣-エルマ
D・D・R
リビング・フォッシル
罠カード(3枚)
×3枚  
×2枚 幻影霧剣
×1枚 幻影騎士団シェード・ブリガンダイン
エクストラデッキ(15枚)
×3枚    
×2枚    
×1枚 アクセスコード・トーカー
剛炎の剣士
虚空海竜リヴァイエール
聖騎士の追想 イゾルデ
ダーク・ダイブ・ボンバー(現行テキスト)
ダウナード・マジシャン
トロイメア・ユニコーン
天霆號アーゼウス
波動竜フォノン・ドラゴン
彼岸の黒天使 ケルビーニ
幻影騎士団ブレイクソード
幻影騎士団ラスティ・バルディッシュ
FNo.0 未来皇ホープ
FNo.0 未来龍皇ホープ
ユニオン・キャリアー

 

 2021年現在のカードプールで再構築した最新版【エルマ1キル】のサンプルレシピです。見る人が見れば一目で紙束と分かってしまうようなデッキリストではあるものの、とりあえず先入観は抜きで解説を進めていきます。

 コンセプトは非常にシンプルで、一言で言えば「蝶の短剣-エルマ」「鉄の騎士 ギア・フリード」「マジックアブソーバー」を1ターンで揃えることに特化したデッキです。前者2枚については説明不要ですが、「マジックアブソーバー」に関してはあまり馴染みのないカードであり、なぜ「王立魔法図書館」ではないのかという疑問もあるかと思います。

 しかし、従来の「王立魔法図書館」をコンボパーツに据えた型では無限ドロー後に別途勝ち筋を用意しなければならず、例えば仮に【エクゾディア】などを持ち出した日には絶望的にデッキが重くなってしまう弊害があります。流石にエクゾディアは極端な例(※)にしても、ただでさえ重量級のデッキがますます重くなってしまうというのは具合が良くありません。

(※なぜ【エクゾディア】が弱いのかについては下記の記事で解説しています)

 よって現代では「王立魔法図書館」の実用化は無謀と判断し、より直接的な勝利手段となり得る「マジックアブソーバー」の採用に至りました。具体的にどのような形でワンキルに繋げるかについては後述しますが、少なくとも従来型の【エルマワンキル】と比べれば遥かに効率的に先攻ワンキルを狙うことができるため、ある程度はガチ構築を追求できていると考えてもいいのではないでしょうか。

 ただ、誤解のないように先に結論を置いておきますが、このデッキは禁止制限無視環境基準ではもちろん、OCG基準、それもファンデッキ基準で見ても相当に弱いデッキ(※)です。

(※単に構築が下手なだけではないか、という意見もあるかと思いますが、恐らくどれだけ上手い人が組んでも強いデッキにすることは難しいと思います)

 

コンボ例「ケルビーニ初動」 回し方・展開ルート

 次はデッキの回し方についてですが、回し方云々というよりはコンボが通るかどうかが全てであるため、基本的な展開ルートさえ覚えておけば問題ありません。

 具体的な展開ルートは下記の通りです。

・「幻影騎士団ティアースケイル」+「焔聖騎士-リナルド」または「サーヴァント・オブ・エンディミオン」のどちらか(及びそれらのサーチカード)

 

①:「幻影騎士団ティアースケイル」を召喚し、効果で「幻影騎士団ダスティローブ」を墓地に落とす。(手札コストは闇属性モンスター以外)

 

②:墓地の「幻影騎士団ダスティローブ」を除外し、「幻影騎士団サイレントブーツ」をサーチする。

 

③:手札から「幻影騎士団サイレントブーツ」を特殊召喚し、「幻影騎士団サイレントブーツ」「幻影騎士団ティアースケイル」の2体を素材に「彼岸の黒天使 ケルビーニ」をリンク召喚する。

 

④:「彼岸の黒天使 ケルビーニ」の効果コストで「彼岸の悪鬼 グラバースニッチ」を墓地に落とす。

 

⑤:「彼岸の悪鬼 グラバースニッチ」の効果で「彼岸の悪鬼 ガトルホッグ」をリクルートする。(位置は「彼岸の黒天使 ケルビーニ」のリンク先)

 

⑥:墓地の「幻影騎士団サイレントブーツ」を除外し、「幻影騎士団シェード・ブリガンダイン」をサーチする。

 

⑦:手順⑥に反応し、墓地の「幻影騎士団ティアースケイル」を蘇生する。(彼岸の自壊デメリットはケルビーニで回避)

 

⑧:「彼岸の悪鬼 ガトルホッグ」「幻影騎士団ティアースケイル」の2体を素材に「虚空海竜リヴァイエール」をエクシーズ召喚する。

 

⑨:「虚空海竜リヴァイエール」の効果で除外ゾーンの「幻影騎士団ダスティローブ」を帰還させる。(コストは「彼岸の悪鬼 ガトルホッグ」)

 

⑩:「彼岸の悪鬼 ガトルホッグ」の効果で「彼岸の悪鬼 グラバースニッチ」を蘇生する。(位置は「彼岸の黒天使 ケルビーニ」のリンク先)

 

⑪:「彼岸の黒天使 ケルビーニ」「彼岸の悪鬼 グラバースニッチ」の2体を素材に「ユニオン・キャリアー」をリンク召喚する。

 

⑫:「ユニオン・キャリアー」の効果により、「幻影騎士団ダスティローブ」を対象に「魔犬オクトロス」を装備する。

 

⑬:手順⑥でサーチした「幻影騎士団シェード・ブリガンダイン」をセットして発動し、「幻影騎士団シェード・ブリガンダイン」「幻影騎士団ダスティローブ」の2体を素材に「聖騎士の追想 イゾルデ」をリンク召喚する。

 

⑭:「魔犬オクトロス」の効果で「闇霊神オブルミラージュ」をサーチする。(「聖騎士の追想 イゾルデ」のサーチ効果は任意)

 

⑮:墓地の闇属性モンスターが「彼岸の悪鬼 ガトルホッグ」「彼岸の悪鬼 グラバースニッチ」「彼岸の黒天使 ケルビーニ」「幻影騎士団ダスティローブ」「魔犬オクトロス」の5体になるため、「闇霊神オブルミラージュ」を特殊召喚する。

 

⑯:「闇霊神オブルミラージュ」の効果で「焔聖騎士-リナルド」「サーヴァント・オブ・エンディミオン」のうち持っていない方をサーチする。

 

⑰:「聖騎士の追想 イゾルデ」の効果により、コストで「蝶の短剣-エルマ」を含む装備魔法カード4種類を墓地に落とし、「鉄の騎士 ギア・フリード」をリクルートする。

 

⑱:「聖騎士の追想 イゾルデ」「虚空海竜リヴァイエール」の2体を素材に「剛炎の剣士」をリンク召喚する。

 

⑲:戦士族の炎属性モンスターが存在するため、手札から「焔聖騎士-リナルド」を特殊召喚する。(チューナー扱い)

 

⑳:「焔聖騎士-リナルド」の効果で墓地の「蝶の短剣-エルマ」をサルベージする。

 

㉑:「サーヴァント・オブ・エンディミオン」をPゾーンにセットする。

 

㉒:「蝶の短剣-エルマ」を「鉄の騎士 ギア・フリード」に装備し、「サーヴァント・オブ・エンディミオン」に魔力カウンターを1つ乗せる。(その後、破壊された「蝶の短剣-エルマ」が手札に戻る)

 

㉓:手順㉒を3回繰り返し、「サーヴァント・オブ・エンディミオン」に魔力カウンターを3つ乗せる。

 

㉔:「闇霊神オブルミラージュ」「剛炎の剣士」の2体を素材に適当なリンクモンスターをリンク召喚してフィールドを空ける。

 

㉕:Pゾーンの「サーヴァント・オブ・エンディミオン」の効果で自身及び、デッキから「マジックアブソーバー」を特殊召喚する。(その後、2体に魔力カウンターが乗る)

 

㉖:「蝶の短剣-エルマ」を「鉄の騎士 ギア・フリード」に装備し、「マジックアブソーバー」に魔力カウンターを1つ乗せる。(その後、破壊された「蝶の短剣-エルマ」が手札に戻る)

 

㉗:魔力カウンターが乗ったことで「マジックアブソーバー」のレベルが1つ上がる。

 

㉘:「マジックアブソーバー」のレベルが40になるまで手順㉖を繰り返す。

 

㉙:チューナー扱いの「焔聖騎士-リナルド」と「サーヴァント・オブ・エンディミオン」の2体を素材に「波動竜フォノン・ドラゴン」をシンクロ召喚する。

 

㉚:「波動竜フォノン・ドラゴン」の効果で自身のレベルを3にする。

 

㉛:「波動竜フォノン・ドラゴン」「鉄の騎士 ギア・フリード」の2体を素材に「ダーク・ダイブ・ボンバー(現行テキスト)」をシンクロ召喚する。

 

㉜:「ダーク・ダイブ・ボンバー(現行テキスト)」の効果により、レベル40の「マジックアブソーバー」を射出して8000バーン。

 

 

 手順が非常に長くなってしまいましたが、上記の展開により「蝶の短剣-エルマ」を利用した先攻ワンキルを決めることができます。遊戯王経験者視点では色々と突っ込みどころが目についてしまう感はありますが、とりあえず個人的には弱体化エラッタ後の「ダーク・ダイブ・ボンバー(現行テキスト)」を輝かせることができたことに少しだけ感動したいところです。

 特筆すべき点としては、やはり実質初手2枚でのワンキル(※)を実現できていることが挙げられます。従来の【エルマワンキル】では3枚のカードが必要になる上にコンボパーツを盤面に揃える手間などもありましたが、こちらは手札に揃えるだけでコンボに突入することができ、最低限ゲームに付いていけるだけの展開力は確保できています。

(※1枚初動も考察しましたが、恐らく現状のカードプールでは「ゲール・ドグラ」などで無限ループを組むなどの本末転倒な手段でしか成立しない可能性が高いです。なお念のためですが、イゾルデのサーチでリナルドを持ってくるのは無理です)

 また、コンボパーツに関しても従来型のように特定のカードを引き込む必要はなく、初動に加えて焔聖騎士-リナルド」「『焔聖剣-デュランダル』」「サーヴァント・オブ・エンディミオン」「魔力統轄」のうちどれでも1枚引きさえすればワンキルが成立します。場合によってはここに「マジカル・アブダクター」などを追加して更にパーツを水増しすることもできるため、こうしたギミック自体の融通の利きやすさも魅力と言えるのではないでしょうか。

 一方で、ご都合主義初動札こと「幻影騎士団ティアースケイル」を初動に使っているのは禁じ手ではないか、という意見もあるかと思います。

 しかし、初動側のカードも「幻影騎士団ティアースケイル」限定というわけではなく、例えば「魔界発現世行きデスガイド」から直接「魔犬オクトロス」を引っ張りつつ「幻影騎士団ラスティ・バルディッシュ」に向かうルートや、3枚初動にはなりますが「幻影騎士団ダスティローブ」+レベル3モンスターなどのパターンからも「幻影騎士団ラスティ・バルディッシュ」を経由することで同様の展開に持っていくことができます。

 これにより比較的広い範囲のハンドでワンキル初動条件を満たすことができるため、そうした意味でも従来型の【エルマワンキル】と比較してほぼ上位互換のコンボに仕上がっていると考えて差し支えないでしょう。

 既に察している方もいらっしゃるとは思いますが、これは「見た目が派手なだけのロマンコンボ」に過ぎません。

 

「見た目が派手なだけのロマンコンボ」とは?

 「見た目が派手なだけのロマンコンボ」というと少々厳しい表現にも聞こえますが、要するに「動きは派手だが実用性がないコンボ」、あるいは身も蓋もない言い方をすれば単に「ネタコンボ」を指します。

 これに関しては遊戯王を遊んでいけば自然と理解できることでもありますが、基本的にコンボというものは決まった時のリターンの大きさよりもコンボ自体の決まりやすさの方が遥かに重要です。どれだけ強力なコンボであっても成功しなければ机上の空論で終わってしまう以上、それがどのようなコンボであれ最低限の軽さは絶対に保証されていなければなりません。

 この「軽さ」というのは単純に初動枚数のことだけを指しているわけではなく、コンボを成立させる上で必要なカードの枚数、つまりデッキ内の不純物の枚数も含めての話となります。よって「初動1枚(ただしデッキスロット30枠消費)」などといったコンボは重いコンボに該当するため、単に「初動~枚」という言葉にのみ騙されるのは危険です。

 また、デッキ内に素引きしてはならないパーツが存在する場合はさらに安定性が低下するため、そうした不純物が何枚あるかによってもコンボの実用性が決まります。これはデッキによって判断基準が変わるため一概には言えませんが、基本的には0枚を目指し、どうしてもという場合にのみ素引きケア込みで2~3枚ならギリギリ許せる(※)というのが一般的な認識にあたります。

(※具体的な例を挙げると、遊戯王経験者はオライオン2積みをキツイと感じる傾向にあります)

 翻って【エルマワンキル】に目を向ければ、これがいかに非常識に重いコンボであるかが見えてきます。

 最高でも2枚初動、妨害にも弱いため誘発が全面的に刺さり、デッキスロット消費が極めて重く、不純物が多いせいで事故率も高く、さらにはデッキ内に素引きしてはいけないパーツが大量に入っているなど、もはや話にならないほど欠陥だらけのコンボです。最凶コンボどころかむしろ弱いコンボの条件を一通り満たしてしまっており、これを凶悪コンボと称するのはあまりに無理がありすぎます。

 それどころか、これは蝶の短剣-エルマ」にとって可能な限り最高の条件を整えた上での理論値コンボであり、実際に実用化することはほぼ考慮されていない状態でのスペックです。その状態ですらこれだけの欠陥が見つかってしまうとなれば、現実的なコンボ適性はどれだけ低いのかという話になってしまいます。

 では【エルマ1キル】以外の使い方はどうかと言うと、残念ながらこちらも見込みはほぼありません。

 例えば【甲虫装機】などで無限の的として使うといった悪用法も一応考えられなくはないですが、実は無制限カードの「暗黒魔族ギルファー・デーモン」でも同じこと(※)ができてしまいます。そちらは「ユニオン・キャリアー」で持ってくるだけで事足りるため、デッキスロット消費、サーチのしやすさどちらを取っても「蝶の短剣-エルマ」のほぼ上位互換です。

(※もちろんそのまま無限ループからのワンキルもできます)

 このように、「エルマにできることは他のカードでもできる」という構図が成り立つ、というよりそれすら通り越して「そもそもエルマにできることが無さすぎる」「数少ない取り柄ですら他のカードより弱い」ということになってしまい、もはや根本的な意味でカードとして純粋に弱すぎると言わざるを得ません。

 結論としては、「蝶の短剣-エルマ」を極悪カード呼ばわりするのは相当に無理があり、あまつさえ禁止カード相当の危険性は確実に無いと断言できます。

 

「将来的に悪用される危険があるのでは」という疑問

 結局のところ、「蝶の短剣-エルマ」が禁止カードである根拠として残るのは「将来的に悪用される危険があるのではないか」という曖昧な可能性、言ってしまえば結論の先送り的な擁護だけです。

 ただし、これについては全くあり得ないとまでは言いませんが、ほぼ間違いなくその可能性はゼロに近いと考えて差し支えありません。

 理由としては、そもそも「蝶の短剣-エルマ」を使わなくても実質上位互換のワンキルコンボを組むことはさほど難しくないからです。

 どういうことなのかと言うと、例えば【エルマワンキルはなぜ弱いのか】の項で触れた「サクリファイス・ロータス」は現時点では無制限カードの一種ですが、実は海外環境ではなんと禁止カードに指定されています。

 これは一時期の環境において【植物リンク】のワンキルパーツとして脚光を浴びていたためで、具体的には2018年4月頃に「フェニキシアン・クラスター・アマリリス」の代替パーツとして日本国内でも注目されていた時期がありました。もっとも、実際そこまで強かったかというと案外そういうわけでもないのですが、少なくとも海外では禁止行きになっているという背景を鑑みる限り、カタログスペックだけを見れば「蝶の短剣-エルマ」と同様に凶悪ワンキルパーツの一種であると判断していいはずです。

 そんな「サクリファイス・ロータス」ですが、実は今現在のカードプールであっても(全盛期には劣るものの)同一コンセプトのワンキルコンボ自体は普通に組むことができます。

 詳しいコンボの仕組みは長くなるためここでは取り上げませんが、少なくとも当記事で紹介した【エルマワンキル】に比べればまだまともに実用性が期待でき、なおかつある程度高い成功率でワンキルできるという点は間違いありません。現在のカードプールにおいても、という点が最も重要で、これにより「エルマよりも実用性のあるワンキルが数年単位で成立し続けている」ということが言えるわけです。

 つまり、これが正しいなら【ロータスワンキル】は【エルマワンキル】以上の最凶禁止コンボであり、「サクリファイス・ロータス」は「蝶の短剣-エルマ」以上の極悪ワンキルパーツという扱いになるはずです。

 ではその「最凶禁止コンボ」が今現在において騒がれているかというと、残念ながら全くそのようなことはありません。同様に、「極悪ワンキルパーツ」であるはずの「サクリファイス・ロータス」も一部のコンボ愛好家界隈を除けばほぼほぼ注目されていない状況にあります。

 これでは「禁止カードであるエルマよりも危険なはずのロータスが誰にも使われていない」ということになってしまい、上記の前提とは明らかに矛盾します。つまり、どちらかの理屈が間違っているということになるはずですが、この場合その可能性が高いのは明らかに「ロータス=極悪カード」という理屈の方です。

 そして「サクリファイス・ロータス」が極悪カードとは言い難いということになれば、「蝶の短剣-エルマ」もまた自動的に極悪カードとは言えなくなります。仮にそれでも極悪カード扱いをゴリ押そうとするのであればサクリファイス・ロータス」のことも極悪カード扱いしなければ筋が通りませんが、もちろんこれは言うまでもなく相当の賢者理論でしょう。

 もっとも、これだけであれば「サクリファイス・ロータス」が将来的に禁止行きになれば「やはりエルマも危険だった」と反論できそうに見えますが、実際には【エルマワンキル】以上に軽い条件でワンキルを狙えるカードは「サクリファイス・ロータス」に限らず無数に存在します。分かりやすいところでは「プリーステス・オーム」などの射出系カードや、「ゴーストリックの駄天使」などの特殊勝利カード、あるいは「暗黒魔族ギルファー・デーモン」のような無限ループ系カード、極端なところでは「幻子力空母エンタープラズニル」辺りのカードでさえも疑似的なワンキルを狙えるわけですが、それらは少なくとも現時点においては例外なく無制限カード(※)です。

(※制限カードを含めていいのであれば「重爆撃禽 ボム・フェネクス」などは明らかに「蝶の短剣-エルマ」よりも危険なカードでしょう)

 というより、身も蓋もないことを言えば今回【エルマワンキル】の雛形となった【幻影騎士団】ですら「No.86 H-C ロンゴミアント」による疑似的な先攻ワンキル(※)を狙うことができてしまいます。つまり【エルマワンキル】を成立させるために必要なデッキスロットを考慮すると、それ以下の枠消費でワンキルできる他のワンキルパーツを使う方が効率的ということになり「大多数のワンキルパーツ>エルマ」という構図に行き着いてしまうため、もはや「蝶の短剣-エルマ」はどれだけ高く見積もっても「その辺に転がっている無制限カードより危険性が低い禁止カード」という立場にしかなれません。

(※初動条件、デッキスロット消費、安定性すべてにおいて【エルマワンキル】を上回っており、実際に環境での活躍もある実用的なコンボです)

 もっとも、それでもワンキル(あるいはループ)という一種の必殺技が弱いはずがなく、「蝶の短剣-エルマ」が凶悪カードではないなどあり得ない、と感じる方もいらっしゃるかもしれません。

 しかし、これは遊戯王未経験者にはあまり知られていない事実なのですが、現代の遊戯王はインフレによって「やろうと思えば何でもできるゲーム」と化しており、莫大なデッキスロットを割いて特定のカードを初手に用意しさえすれば、もはやワンキルできて当然なのです。ではなぜそれが問題にならないのかというと「莫大なデッキスロットを割いて特定のカードを初手に用意しなければならない(※)」からであり、要するに弱いからです。それは「蝶の短剣-エルマ」も例外ではありません。

(※逆に言えば、汎用性が高い上にローリスクでワンキルやループが狙える「旧神ノーデン」のようなワンキルパーツこそが本当の意味で凶悪カード扱いが相応しいと言えます)

 

エルマが禁止カードである(本当の)理由

 このように、OCGのカードプールであっても【エルマワンキル】以上に効率的なワンキルコンボを普通に組めてしまう(※)という動かぬ事実がある以上、ワンキルできるという事実だけを根拠に「蝶の短剣-エルマ」を極悪禁止カード扱いするのは相当にナンセンスであることが分かります。

(※どうしても信じられない場合、「ハリファイバー ワンキル」辺りのワードで適当にグーグル検索すればいくらでもワンキルコンボが出てきます)

 実際、特にワンキル界隈に造詣が深いわけではない筆者自身ですら先攻ワンキル成功率ほぼ100%の極悪ワンキルデッキ(もといネタデッキ)を自作したこともあります。これはカタログスペックだけを見れば【エルマワンキル】は当然として、かの【イグナイト100%ワンキル】にも迫る脅威のワンキルデッキであると言っても過言ではないでしょう。

 しかし、そんな【デビフラほぼ100%ワンキル】はもちろん環境での活躍は全くなく、むしろそもそも話題にすらなっていません(※)。

(※割と頑張って組んだ力作デッキですので、今更ですがよければ話題のタネにでもどうぞ……)

 長くなりましたが、要するに「エルマを悪用できるカードプールが成立している≒他のカードを使えば上位互換のコンボが組める」という図式が成り立ってしまうため、事実上「蝶の短剣-エルマ」には相対的に危険性が全くないという結論に行き着いてしまうわけです。この図式を崩すには「エルマを利用したワンキルはできるがエルマ以外のカードでは一切ワンキルが成立しないカードプール」というあり得ない仮定が必要になり、そのような考察は考慮に値しません。

 しかし、そこに納得のいく説明を用意できている検証考察は見たことがなく、言い方は悪いもののワンキルという見た目のインパクトだけで誤魔化しているような内容が大半です。仮に「蝶の短剣-エルマ」とそれ以外のワンキルパーツに何らかの違いがあるとすれば、それは「たまたま禁止カードになっているだけ」「たまたま放置されているだけ」という2択の話でしかなく、それを無理矢理に「極悪禁止ワンキル最強」という論調に持っていくのは検証考察として少々乱暴ではないかという印象はあります。

 仮の話をします。

 もしも「暗黒魔族ギルファー・デーモン」が大昔に禁止行きになっている世界があったとしたら、そこでは暗黒魔族ギルファー・デーモン」が世間的に極悪カード扱いされていることでしょう。同様に、もしもその世界で「蝶の短剣-エルマ」が無制限カードだったとしたら、そこでは「蝶の短剣-エルマ」は現実における「暗黒魔族ギルファー・デーモン」と大差ない立場にいるはずです。

 つまるところ、今現在において「蝶の短剣-エルマ」が禁止カード指定を受けている真の理由は「たまたま禁止カードになっているだけ」という単にそれだけの話に過ぎず、いわゆる禁止論争に対して回答を出すのであれば「その辺の無制限カードと大差ない」が答えです。

 実際には、わざわざ「蝶の短剣-エルマ」を無制限カードにまで釈放するメリットは特になく、また開発側のスタンスとしてワンキルパーツは問題があるかどうか云々関係なく復帰させることは(FWDなどの例外を除けば)基本的にないため、今後も禁止カードのまま放置される状況が続くものと思われます。

 しかし、仮に「蝶の短剣-エルマ」が過去のどこかの段階で制限復帰を既に済ませていた場合、恐らく今頃は誰にも注目されないマイナーカードとして埋もれていた程度のカードなのではないでしょうか。

 

【まとめ】

 「蝶の短剣-エルマ」についての話は以上です。

 かつては極悪コンボパーツの代名詞として悪名を馳せたカードであり、「このカードの凶悪さが理解できたら初心者卒業」と言われることもあったカードですが、今となっては完全に評価が逆転して「このカードが凶悪ではないことに気付けたら初心者卒業」に変わってしまったと言わざるを得ません。巷では「カードプールが広がった現代ではさらに凶悪になった」といった認識をされることもありますが、実際にはむしろ「カードプールが広がったせいで一周回って逆に弱くなった」が正しい認識であり、ここの誤解こそが「蝶の短剣-エルマ」に対する最大の勘違いであると言えるでしょう。

 と言っても、これに関しては遊戯王をある程度プレイしていなければあまりピンと来ないタイプの話ではあるため、今現在においても「蝶の短剣-エルマ」が昔の評価のままイメージが固定されていても仕方がない面はあります。

 しかし、だからこそこうした基本知識を無視して禁止カードという先入観だけで過剰に持ち上げる(※)のはあまり本質的ではない、ということは確かです。

(※一般層に対しては「禁止カードヤバい」的なコンテンツの方がウケがいい、という側面もあるのかもしれませんが……)

 そのため、この記事がなるべく多くの方々の目に留まり、少しでも禁止カードに対する勘違いを払拭できれば幸いです。

 ……もっとも、この記事を読みにくるような方はこの記事を読むまでもなく「蝶の短剣-エルマ」が弱いことを知っており、逆にそうでない方はそもそもこの記事に辿り着かないのではないかといった根本的な矛盾もあり、果たしてこの記事の需要が一体どこの層にあるのかと疑問に思ってしまうところではあるのですが……。

 ここまで目を通していただき、ありがとうございます。

 

Posted by 遊史