ダーク・アームド・ドラゴン無制限時代 トップデッキ【ダムドビート】の台頭

2019年1月16日

【前書き】

 【第5期の歴史31 地雷デッキ【ダークガイア】の脅威 ワンキル系の流行】の続きとなります。ご注意ください。

 「ダーク・コーリング」の参戦を受けて開発された【ダークガイア】の台頭により、以降の環境では一定割合のゲームで後攻1キルと遭遇してしまうことを余儀なくされました。

 とはいえ、【ダークガイア】にも複数の弱点が存在していたこと、また【パキケガジェット】を筆頭とするメタデッキの圧力もあり、それほど支配的な地位を築くには至っていません。そのため、全体の傾向としてはやはり中速環境が成立していたと言えるでしょう。

 コントロール色が徐々に強まる環境を尻目に、続く11月下旬に当時の環境を揺るがす大規模なカードプールの更新が入ります。

 

ボチヤミサンタイ≒ダムド 恐怖の呪文

 2007年11月23日、レギュラーパック「PHANTOM DARKNESS」が、さらにその同日に「アカデミーデュエルディスク オシリスレッド」が販売されました。レギュラーパックから80種類、デュエルディスク同梱カードから5種類、計85種類の新規カードが誕生し、遊戯王OCG全体のカードプールは3004種類に増加しています。

 第5期出身パックとしては過去最高レベルに豪華なラインナップで、参入直後あるいは将来的問わず環境に影響を及ぼしたカードは少なくありません。「終末の騎士」や「超融合」はその筆頭ですが、「サイバー・ヴァリー」や「メガキャノン・ソルジャー」などのワンキルギミックに悪用されたカードも含まれています。

 一方、デュエルディスク同梱カードからも「E・HERO プリズマー」「アームズ・ホール」といった実戦級カードが現れており、デュエルディスクを品薄状態にさせるほどの影響力を及ぼしました。特に「アームズ・ホール」は本体であるはずのデュエルディスクよりも高価で取引されることも多く、第5期中に散見された「同梱カード商法」を象徴するようなカードだったのではないでしょうか。

 しかし、そうしたカードの中でも最も大きな衝撃をもたらしたのは、まず間違いなく「ダーク・アームド・ドラゴン」に他ならないと言えるでしょう。

このカードは通常召喚できない。自分の墓地に存在する闇属性モンスターが3体の場合のみ、このカードを特殊召喚する事ができる。自分の墓地に存在する闇属性モンスター1体をゲームから除外する事で、フィールド上のカード1枚を破壊する事ができる。

 【ダーク】シリーズカードの1枚にして、その代表格となるモンスターです。結論を先に言えば、第5期出身カードの中でもトップクラスに高い性能を誇るパワーカードであり、遊戯王前半期における最強クラスの大型モンスターと言っても過言ではありません。

 2800という最上級ラインの基本となる打点に加え、何よりも強力なのが「墓地の闇属性モンスターをコストに万能除去を行う起動効果」で、これは第5期当時としてはあり得ないほどに反則的な除去効果(※)でした。単純にカードの種類・表裏を問わない除去というだけで水準以上の性能ですが、これをカード・アドバンテージの消費なしで、あまつさえ回数制限なく連発可能というのは明らかに何かが狂っています。

(※参考までに、当時は「スナイプストーカー」が制限カード指定を受けていた状況です)

 考えようによっては【カオス】と同等かそれ以上に強力なカードで、一時期はそれらと同様に禁止カード行きが噂されていたことすらありました。実際には禁止カード行きは免れることになりましたが、それでも10年以上(※)にも渡って規制を受け続けていたというのは驚異的な話です。

(※正確には第9期初頭の制限改訂で一旦は準制限カードに緩和されていますが、その半年後に制限カードに逆戻りしたという経緯があります)

 いずれにしても、「ダーク・アームド・ドラゴン」の誕生によって当時の環境に激震が走ったことは間違いありません。

 中でも大きな変化として現れたのが、これ以降は「墓地に闇属性モンスターが3体存在すること」自体が一種の脅威として機能するようになったということでしょう。いわゆる「ボチヤミサンタイ」の呪文であり、当時の環境においてはこの呪文の存在そのものがプレイヤーの行動をおかしくさせていました。

 具体的には、墓地に闇属性モンスターが落ちた瞬間に「D.D.クロウ」を投げる、あるいはそれすらなく突然「D.D.クロウ」を投げ捨てるといったプレイが該当します。これはどちらも「ボチヤミサンタイ」を意識したプレイであり、「相手のダムドの召喚条件を満たさせない」「自分のダムドの召喚条件を満たす」ことをそれぞれ意図しています。

 また、この応用テクニックとして、あえて墓地の闇属性モンスターを2体もしくは4体のままキープするというプレイングも存在していました。一見すると意味が分からないプレイですが、これは「ダムドを握っているがダムドの召喚条件を満たせない状態」と相手に誤認させ、「D.D.クロウ」を引きずり出せる可能性があったからです。

 事実上、「ダーク・アームド・ドラゴン」というモンスターがカードプールに存在すること自体がプレイヤーの行動を支配していた形であり、もはや呪いか何かとしか思えない恐怖の呪文です。

 

最初は弱いと思われていたダムド 実際は調整ミス気味の強さ

 とはいえ、そんな「ダーク・アームド・ドラゴン」も当初から注目を受けていたわけではありません。

 なぜなら、召喚条件である「墓地の闇属性モンスターが3体丁度であること」を厳しい条件と判断するプレイヤーが多く、おおむね腐りやすいロマンカードとしか思われていなかったからです。

 実際、腐りやすいというのは事実の一端でもあり、むしろそれこそが「ダーク・アームド・ドラゴン」最大の弱点とも言えます。もちろん、その弱点が問題にならないほど他の要素が強すぎるのが「ダーク・アームド・ドラゴン」というカードなのですが、そうした使用感は実際に使ってみて初めて分かることでもあります。

 そのため、情報判明時点での「ダーク・アームド・ドラゴン」はパワーカードどころか闇属性専用サポートとしてもあまり期待されておらず、前評判では「ダーク・クリエイター」などの方が高評価を受けている状況でした。

 その後、蓋を開けてみれば非常に緩い召喚条件でしかなく、明らかに調整ミス気味に強いカードだったというのは以降の数々の実績が示す通りです。

 

【ダムドビート】の成立 2008年環境のトップメタ

 「ダーク・アームド・ドラゴン」の強さに関しては上記の通りであり、この下馬評が覆るまでにはそれほど時間を要しませんでした。

 しかし、やはり召喚条件の面ではかつての【カオス】ほどの汎用性はなく、ある程度の専用構築が求められるカードだったことも事実です。それを受けて専用デッキの開発が進んだ結果、「ダーク・アームド・ドラゴン」は【ダムドビート】として環境トップに躍り出ることになります。

 デッキの構造そのものは非常に単純で、アーキタイプとしては【グッドスタッフ】に属しているデッキです。特徴的な採用カードは「終末の騎士」や「ファントム・オブ・カオス」程度であり、残りの枠はメタゲームの流れ、あるいはプレイヤーの好みによって自在に姿を変えると言っても過言ではありません。

 一応、当時よく使われていたカードとしては、リクルーターの「キラー・トマト」や、墓地メタ・除外メタの「霊滅術師 カイクウ」、手札誘発の「D.D.クロウ」などの面々が挙げられます。特に「D.D.クロウ」は必須級のカードと言ってよく、ミラーマッチ対策はもちろんのこと、【ダムドビート】の後を追うように現れた【ドグマブレード】の対策も兼ねて3積みが基本とされていたほどです。

 その他、【デステニー】系との複合型である【デステニーダムド】や、「邪帝ガイウス」を取り入れて【帝コントロール】に寄せた【ダムド帝】など、「ダーク・アームド・ドラゴン」をキーカードとするデッキは少なくありません。

 こうした「ダムド全盛期」は第6期突入後も陰ることはなく、むしろ【シンクロ召喚】の導入によって勢いが加速していくことになります。その筆頭が【シンクロダムド】【シンクロアンデット】であり、実際に2008年の選考会では【シンクロダムド】がトップデッキとして一時代を築きました。

 その結果、2008年9月に準制限カード、2009年3月に制限カードと段階を踏んで規制強化の道を辿ることになり、大々的な活躍は幕を下ろした形です。もちろん、それ以降も依然強力なフィニッシャーとしてタッチされることは少なくありませんでしたが、少なくとも【ダムドビート】というアーキタイプ単位で存在感を示すことはなくなったと言えるでしょう。

 

当時の環境 2007年11月23日

 当然のことながら、【ダムドビート】の参戦は当時の環境に多大な影響をもたらすことになりました。

 これまでメタ上位を独占していた【ライダー】系や【帝コントロール】は一瞬で首位争いから蹴り落とされ、間もなく中堅レベルにまで勢力を縮小させています。文字通り当時のメタゲームを一変させてしまった格好であり、構図としてはパワーデッキが更なるパワーデッキによって駆逐されてしまった形と言えるでしょう。

 こうした流れを受け、以降はこの【ダムドビート】対策として【パキケガジェット】を筆頭とする【メタビート】系デッキの流行が訪れることになります。

 正確には、これ以前にも「ライオウ」などを使う類型のメタデッキは存在していたのですが、【ダムドビート】の参入をきっかけに【パキケガジェット】への派生が進んでいった格好となります。「フォッシル・ダイナ パキケファロ」や「閃光の追放者」によって徹底的にメタを張り、とにかく「ダムドを出させないこと」に焦点を置いたデッキです。

 その他、形を変えたメタデッキとして、「D-HERO Bloo-D」を切り札とする【ブルーD】などもこの頃に考案されています。その中でも「幻銃士」を使うタイプは特に【幻銃ブルーD】と呼ばれ、【ブルーD】における主流型として名を馳せていくことになりました。

 また、「D-HERO Bloo-D」はデッキ単位だけでなくカード単位でも実績を残しており、サイドカードとしてはもちろん、相性の良いデッキではメインから採用されるケースも散見されました。事によっては【ダムドビート】においても使われることがあったほどであり、ピーキーな性能に反して汎用カード染みた活躍を見せていたモンスターです。

 いずれにしても、これ以降の環境が「ダーク・アームド・ドラゴン」を中心に変遷していったことは疑いようもありません。この先のメタゲームは【ダムドビート】の強い支配、そしてそれに逆らう数々のメタデッキによって構成されていくことになりました。

 

【まとめ】

 「ダーク・アームド・ドラゴン」についての話は以上です。

 その独特な召喚条件が災いし、情報判明時点では大振りなロマンカードという扱いを受けていたモンスターですが、いざ蓋を開けてみれば凄まじいカードパワーによって一瞬で環境を席巻しています。その圧倒的な勢いはとどまるところを知らず、第5期はおろか第6期突入以降も環境トップを独占し続けていたほどです。

 他方では、「D.D.クロウ」を流行させたことで間接的に【ドグマブレード】の勢いに歯止めをかけるなど、環境の健全化に一役買っていた裏事情も少なからず存在します。その意味でも、この「ダーク・アームド・ドラゴン」というカードが環境に及ぼした影響は極めて多大なものだったのではないでしょうか。

 ここまで目を通していただき、ありがとうございます。

 

Posted by 遊史