氷結界の龍トリシューラ無制限時代 禁止カード経験持ちの極悪シンクロ

2019年4月12日

【前書き】

 【第6期の歴史29 遊戯王の歴史 2009年の総括】の続きとなります。ご注意ください。

 波乱の2009年が終わりを告げ、遊戯王OCGは11度目の新年を迎えることとなりました。「ダーク・ダイブ・ボンバー(エラッタ前)」を筆頭に、様々な面で危険な兆候が見られた1年となっていましたが、それでも完全にバランスが崩壊していたというわけではなく、すったもんだがありつつもカードゲームとしての歴史をまた一つ刻んでいます。

 第6期も終盤に近付く2010年初頭環境の折、そうした流れに更なる混乱を呼び込むパワーカードが初月早々に現れることになります。

 

トリシューラ全盛期 僅か半年強で制限行き

 2010年1月21日、デュエルターミナル第8弾である「-トリシューラの鼓動!!-」が販売されました。新たに30種類のカードが誕生し、遊戯王OCG全体のカードプールは4133種類に増加しています。

 「ナチュル・エクストリオ」「A・ジェネクス・バードマン」など、何らかの形で環境レベルの実績を残した名カードが収録されていました。特に「A・ジェネクス・バードマン」は単純な汎用性もさることながら、【ガリス1キル】を始めとする各種コンボデッキで引っ張りだこになっていた過去もあり、現在においても人知れず制限カード指定が続いているカードです。

 とはいえ、やはりこの時に現れた最大の目玉カードは「氷結界の龍 トリシューラ」だったのではないでしょうか。

このカードがシンクロ召喚に成功した時、相手の手札・フィールド上・墓地のカードをそれぞれ1枚までゲームから除外する事ができる。

 結論を先に言ってしまえば、レベル9シンクロでは間違いなく最強、なおかつシンクロモンスター全体を見渡してもトップクラスの強さを誇るパワーカードです。シンクロ召喚成功時に手札・フィールド・墓地のカードを1枚ずつ除外するというシンプルに凶悪な除去能力を備えており、これほどの効果は除去の性能がインフレを起こしている現在(※)においてすら早々見かけることはありません。

(※というより、むしろリメイクカードの多くが下位互換になるように調整されています)

 また、上記の第6期版テキストでは分かりにくいですがこの効果は「対象を取らない除去」であるため、対象耐性及び破壊耐性を無視でき、さらにサクリファイス・エスケープすら許さないという性質を持っています。

 具体的には、当時のエクストラの必須枠だった「スターダスト・ドラゴン」をメイン1で確実に無力化する、あるいはゴッドバードアタック」「デュアルスパーク」を損失無しで引きずり出すといった芸当が可能です。特に「ゴッドバードアタック」は【旋風BF】が流行していた関係で遭遇率が非常に高く、これを弱いタイミングで撃たせやすいというのは大きな強みであると言えます。

 一方、この時期のカードプールでは対象耐性持ちモンスターを環境レベルで見かけるケースは稀でしたが、それでも「マシンナーズ・フォートレス」のハンデス効果をすり抜けるといった利点は決して無視できません。

 そんな「氷結界の龍 トリシューラ」に数少ない弱点が存在するとすれば、それはレベル9かつ素材3体以上必須と他のシンクロモンスターと比べて重く、カウンターを踏んでしまうと損失が大きくなりやすいということでしょう。

 しかし、逆に言えばカウンターをケアしたプレイングを心掛けることでリスクを最小限に抑えることは可能であり、弱点らしい弱点には見なされていませんでした。そもそもシンクロモンスターの性質上、メインデッキの大型モンスターのように手札で不要牌となって腐るリスクが存在しないため、重さが弱点になるという考え方そのものが適切ではなかったとも言えます。

 ともあれ、これほどのパワーカードが2010年当時において注目されないはずがなく、文字通り「-トリシューラの鼓動!!-」というタイトル名を象徴するトップレアとして知れ渡ることになりました。当時は層が薄かったレベル9シンクロの新規というだけでも一定の関心を集めていましたが、詳細な効果が判明するや否や話題騒然(※)となり、ターミナル稼働前から使用方法が研究されるほどの影響力を及ぼしています。

(※反面、重さなどを理由に大して強くはないと判断したプレイヤーも少なくなく、いわゆるプッシューラ騒動なども起こっています)

 具体的には、氷結界の龍 トリシューラ」を出しやすいというだけで「魔轟神獣ケルベラル」採用型の【ケルベライロ】が一時期流行するなど、当時の環境トップを務めていたデッキの型をこれ1枚で派生させてしまったほどです。同様に純構築よりも9シンクロを出しやすかった【ライロアンデット】も勢力を拡大させており、事実上「氷結界の龍 トリシューラ」の存在がメタゲームを少なからず動かしたと言っても過言ではないでしょう。

 さらに、この影響で当時はまだマイナーカードだった「デブリ・ドラゴン」などに注目が集まり、間もなく【デブリ】系のひな形が考案されるに至るなど、「氷結界の龍 トリシューラ」が引き起こした出来事は少なくありません。実際、第一線を退いていた【レスキューシンクロ】が将来的に復権を遂げたことについても「氷結界の龍 トリシューラ」の存在が少なからず絡んでいたことは間違いないのではないでしょうか。

 もちろん、上述の通り単純に既存デッキの汎用9シンクロとしても高評価を受けており、9シンクロを出すルートが1つでも存在するのであれば無条件で採用していいとすら言われていました。当時は現代ほどエクストラの枠争いが苛烈ではなく、「召喚できれば儲けもの」程度の認識であっても採用する価値はあるという意見が主流だったからです。

 

トリシュ3連打系デッキの恐怖 2700×3=8100

 とはいえ、やはり普通のデッキにとっては9シンクロを出せる場面は限られており、いたずらに何枚も積むようなカードではなかったことも確かです。

 実際、上記の【ケルベライロ】や【ライロアンデット】などのデッキでも「氷結界の龍 トリシューラ」が複数枚採用されるケースは少なく、9シンクロを2枠取る場合も「ミスト・ウォーム」と1枠ずつスペースを分け合うという構築が主流でした。

 言い換えれば、全盛期の「氷結界の龍 ブリューナク(エラッタ前)」や「ゴヨウ・ガーディアン(エラッタ前)」、あるいは「ダーク・ダイブ・ボンバー(エラッタ前)」といった面々ほど何度もゲームで遭遇することはなく、少なくともそれらと比べればまだしも大人しいカードであると考えられていた節もあります。

 しかし、こうした「トリシュピン挿し時代」の平穏が長続きすることはありませんでした。

 なぜなら、第7期突入頃を境にシンクロ召喚関連のサポートが急速に増加した結果、間もなく氷結界の龍 トリシューラ」を1ゲーム中に何度も呼び出せるほど9シンクロに特化したデッキが開発されるに至ったからです。

 その筆頭が【インフェルニティ】や【ガエルシンクロ】などの凶悪なシンクロデッキであり、第7期初頭環境における「トリシュ地獄」を象徴する存在でもあります。特に【インフェルニティ】では1ターンで「氷結界の龍 トリシューラ」が3体並んでしまうことも珍しくなく、「3ハンデス・3除外・総打点8100」というこの世の終わりのような盤面をしばしば発生させていました。

 この時期に「エフェクト・ヴェーラー」「D.D.クロウ」の流行が急速に進んだことにもこうした背景があり、遂には「ヴェーラー握ってない方が悪い」という迷言を生み出すに至ったほどです。これは手札誘発のメイン採用が今ほど一般的ではなかった当時としてはかなりぶっ飛んだ概念であり、これ以前の遊戯王OCGと比べて明らかに何かがおかしい環境が広がっていたことは疑いようもありません。

 こうした環境での暴走の結果、「氷結界の龍 トリシューラ」は直後の2010年9月の改訂で早々に制限カード指定を下され、短くも長い「トリシュ地獄」に終止符が打たれることになります。誕生から僅か半年強での規制入りであり、これはもちろん「氷結界の龍 ブリューナク(エラッタ前)」や「ゴヨウ・ガーディアン(エラッタ前)」らを遥かに上回る記録です。

 

トリシューラ制限時代 間もなく禁止カード

 ところが、「トリシュ地獄」が収束に向かった後も「氷結界の龍 トリシューラ」自体の現役時代が終わることはありませんでした。

 前項目での解説の通り、むしろ普通のデッキにとっては「氷結界の龍 トリシューラ」はピン挿し安定のカードであり、制限カード指定による影響をほとんど受けなかったからです。

 これにより「氷結界の龍 トリシューラ」は前期環境での活躍もあって完全に9シンクロの必須枠として定着することとなり、あらゆるシンクロデッキ共通のエンドカードのような扱いを受けるようになりました。「トリシュ地獄」とはまた別の形での「トリシュ全盛期」の到来であり、結局制限カード指定だけでは「氷結界の龍 トリシューラ」の絶大なカードパワーを抑え込むことはできなかったということでもあります。

 また、こうした健全な使い道とは別に、各種ループギミックに「氷結界の龍 トリシューラ」を取り入れて何度も使い回すコンボも考案されており、デッキによっては「トリシュ地獄」を疑似再現することも不可能ではありませんでした。それどころか、2011年に突入すると無限ループによって「無限トリシュ」を決めるコンボ(※)も開発されるなど、ある意味「トリシュ地獄」以上に致命的な状況を作り上げていたことは否定できません。

(※中でもループギミックをTOD+疑似マッチキルにまで昇華させた【シーラカンスワンキル】の凶悪さは群を抜いていました)

 このような凶悪な振る舞いが許されるはずがなく、「氷結界の龍 トリシューラ」は2012年3月の改訂をもって遂に禁止カード行きを宣告されることになります。名実ともに極悪カードの仲間入りを果たした格好であり、一時期は二度と現役復帰はあり得ない(※)だろうと言われることさえあったほどです。

(※しかし、第8期中頃に制限復帰を果たしています)

 現在ではゲームバランスのインフレもあって無制限カードに釈放されている(※)カードですが、実はそのポジションに収まったのは2019年10月とごく最近のことであり、そうした慎重な扱いからも「氷結界の龍 トリシューラ」が遊戯王屈指のパワーカードであることが窺い知れるのではないでしょうか。

(※ルール改訂の影響により、2020年4月改訂で再び制限カードに逆戻りしました)

 

【まとめ】

 「氷結界の龍 トリシューラ」についての話は以上です。

 その圧倒的なカードパワーにより情報判明直後から多大な注目を集め、間もなく最強の9シンクロの立ち位置を確立しています。その人気は出身タイトルである「-トリシューラの鼓動!!-」を一時期在庫切れに追い込んでしまったほどであり、ターミナル本来の遊び方ができなくなるという事態を引き起こしたことは特に有名な逸話でしょう。

 その後は制限から禁止、再び制限という経緯を辿り、その後しばらくは無制限という立ち位置に収まっていましたが、第11期突入と同時にまたもや制限カードに逆戻りするなど、今なおカードパワーの高さは決して衰えておらず、今後も引き続き活躍していくであろうOCG有数の名カードです。

 ここまで目を通していただき、ありがとうございます。

 

Posted by 遊史