モンスターゲートの誕生 【サイエンカタパ】完成体へ
・前書き
・天空の聖域 ゲームバランスは守ってくれなかった
・モンスターゲート 無作為リクルート(大嘘)
・【サイエンカタパ】全盛期突入 第3期最強の先攻1キル
・当時の環境 2003年11月20日
・まとめ
【前書き】
【第3期の歴史29 制限改訂2003/10/15 【カオス】弱体化と【サイエンカタパ】一時解体】の続きとなります。ご注意ください。
制限改訂によって【カオス】や【サイエンカタパ】に対して厳しい規制が入り、当時の環境はひとまずの落ち着きを取り戻すことになりました。
全体的にゲームバランスのデフレが起こったことで【トマハン】【デビフラ1キル】が再浮上したほか、【ノーカオス】や【ミーネ・ウイルス】などの新勢力も台頭し始めています。これまでの環境と比べて大幅にゲーム性が改善されており、遊戯王OCGの評価も少しずつ回復に向かっていたのではないでしょうか。
【宝札マンティコア】や【デッキ破壊1キル】などの脅威も残っていましたが、おおむね健全なバランスが成立していたと言えるでしょう。
しかし、そうした安寧はつかの間に平和に過ぎませんでした。
【天空の聖域 ゲームバランスは守ってくれなかった】
2003年11月20日、「天空の聖域」が販売されました。新たに56種類のカードが誕生し、遊戯王OCG全体のカードプールは1741種類に増加しています。
パック名の通り、全体的に天使族モンスターや光属性サポートカードの収録が多いのが特徴です。【天使族】系列の様々な派生デッキを内包する「天空の聖域」を筆頭に、第7期で活躍した【代行者】のキーカードである「創造の代行者 ヴィーナス」もこの時に誕生しています。
同じく【代行者】に属する「裁きの代行者 サターン」も後世で【ヘル・サターン1キル】として専用デッキが考案されているなど、名実ともに【天使族】を象徴するパックだったと言えるでしょう。
他方では、コンボによって真価を発揮する「一癖あるカード」を多数輩出したことも特徴のひとつとして数えられます。「神秘の中華なべ」「エネミーコントローラー」「光の護封壁」といった準汎用クラスの優良カードのほか、【アステカ】の「アステカの石像」や【ドローロック】の「伝説の柔術家」など、特定のデッキでキーカードを務めるモンスターも少なくありません。
一方で、これまでと比べて「分かりやすい強さ」を持ったカードがほとんど収録されていなかったパックでもあります。純粋に単体で機能するタイプのパワーカードは「雷帝ザボルグ」程度であり、それも極端に強いカードというわけではありません。
よく言えば玄人向け、悪く言えば「塩パック」という印象は強く、環境に与える影響もさざ波の範囲に収まるかに見えました。
モンスターゲート 無作為リクルート(大嘘)
ところが、ここに収録されていたとある1枚のカードが発見された瞬間、そうした評価は一瞬でひっくり返ってしまうことになります。
遊戯王屈指の問題児カード、「モンスターゲート」の誕生です。
自分フィールド上のモンスター1体を生け贄に捧げる。通常召喚可能なモンスターが出るまで自分のデッキをめくり、そのモンスターを特殊召喚する。他のめくったカードは全て墓地に送る。
「通常召喚可能なモンスター」が出るまでデッキトップを1枚ずつめくっていき、最初にめくれたモンスターを特殊召喚するという効果を持っています。通常召喚可能でさえあればレベルは問わないため、当たり運によっては大型モンスターを呼び出せる可能性があるのが魅力です。
ただし、この効果で何がめくれるかは運次第であり、小型モンスターを引いて損をしてしまうケースも少なくありません。発動コストとしてモンスター1体を要求される点も使い勝手を落とし、最悪の場合実質2枚分のディスアドバンテージを負う結果に終わってしまうことすらあります。
総じて運の要素が強く、どう転ぶか分からない不安定なカードです。相互互換カードの「名推理」同様、まず普通のデッキに入るタイプのカードではないでしょう。
しかし、デッキ構築段階からモンスターの比率を調整することにより、狙ったカードを引き当てる確率を上げることができます。あるいは逆に、めくられたカードが墓地へ送られることに着目して大量墓地肥やしカードとして運用するなど、外見からは想像もできないほど多彩な使い方ができる優秀なカードです。
こうした理念を中核に据えたデッキの総称が【推理ゲート】であり、無数の派生デッキを内包する非常に巨大なアーキタイプ(※)と言えるでしょう。デザイナーズデッキが隆盛する現在であってもこの概念は廃れておらず、例えば【インフェルノイド】なども広義ではここに該当しています。
(※有名どころとしては、【エアブレード】【ダークガイア】【ドグマブレード】などのデッキが挙げられます)
【サイエンカタパ】全盛期突入 第3期最強の先攻1キル
第3期当時においては、この【推理ゲート】のギミックは【サイエンカタパ】に取り込まれることになりました。
性質上、【サイエンカタパ】は「魔導サイエンティスト」と「カタパルト・タートル(エラッタ前)」の2体が揃いさえすれば勝利が確定します。その上、基本的に上記2種以外のモンスターカードをほとんど採用しないため、ほぼ確実にどちらかのモンスターを特殊召喚することができました。
発動コストとなるモンスターも「トゥーンのもくじ」からの「トゥーン・キャノン・ソルジャー」といった形で安定供給が可能です。さらに、この発動コスト自体も「遺言状」のトリガーに利用でき、変わったところでは「処刑人-マキュラ(エラッタ前)」を墓地に落とす役割もこなせます。
加えて墓地肥やし能力も「混沌の黒魔術師(エラッタ前)」の回収効果とシナジーしています。まさにカードの性能を余すところなく引き出しており、デッキパーツとして一切無駄がありません。
また、この「モンスターゲート」の相方として「デビルズ・サンクチュアリ」が浮上しています。
実質モンスター枠でありながら魔法カードであるため、余計なモンスターを積みたくない【サイエンカタパ】とは抜群の相性を誇ります。「モンスターゲート」だけでなく「カタパルト・タートル(エラッタ前)」の生け贄召喚の補助にもなるなど、潤滑油として優秀であることから当然3積み確定の必須カードです。
これらを総括して考える場合、「トゥーンのもくじ」3枚、「増援」2枚、「デビルズ・サンクチュアリ」3枚を積むことにより、「トゥーン・キャノン・ソルジャー」「処刑人-マキュラ(エラッタ前)」の2枠を10枠にまで水増しすることができます。「モンスターゲート」の種としては十分な枚数であり、「名推理」を合わせれば不確定ながら13枠と数えることもできるでしょう。
そして、こうした構築の最適化を受け、とうとう【サイエンカタパ】が本格的に環境を荒らし始めることになりました。幸か不幸かこの時期は最終形態には至っていませんが、おおむね完成体と呼べる段階にまで成長を遂げています。
最終的には世界大会予選レベルの話でトーナメントシーンを荒らし尽くしており、実績の大きさそのものは【エクゾディア】(第1期)や【現世と冥界の逆転】(第2期)の比ではありません。全盛期の長さも年単位に及んでいるなど、この【サイエンカタパ】が遊戯王OCGに刻み込んだ被害の度合いは計り知れないものがありました。
上記2デッキに比べて大々的に悪名が轟いていることには、そうした事情が絡んでいたのではないでしょうか。
【当時の環境 2003年11月20日】
「モンスターゲート」の誕生により、直前の制限改訂で姿を消したはずの【サイエンカタパ】が完成体に姿を変えて環境に再臨しています。
先攻1キルデッキとしては飛び抜けた安定性を誇り、同じく先攻1キルデッキである【宝札マンティコア】【デッキ破壊1キル】をほぼ淘汰してしまった格好です。さらに、これ以降もカードプールの拡大に応じてデッキパワーを高めていっており、最終的には【エクゾディア】(第1期)や【現世と冥界の逆転】(第2期)に匹敵、あるいは凌駕する凶悪さを獲得するに至っています。
もちろん、コンボデッキ以外のフェアデッキも大きな影響を受け、【ノーカオス】や【ミーネ・ウイルス】、そして再浮上したばかりの【トマハン】【デビフラ1キル】も再び環境の隅に追いやられています。
ただし、辛うじて【カオス】は地力の高さからトップメタに踏みとどまることになりました。元々コンボデッキはマッチ戦を勝ち抜きにくいというハンデを抱えており、確率的には一定のつけ入る隙が残されていたからです。
とはいえ、やはりデッキの凶悪さは群を抜いており、当時の環境においても長い間猛威をふるい続けています。コンボの成功率もさることながら、【デッキ破壊1キル】などと異なり先攻時は完全に打つ手がなく、ジャンケンの結果がそのまま勝敗に繋がってしまうシチュエーションが多発していました。
また、後攻時であっても単発のハンデスやカウンターでは止まらないケースも多く、完全な無力化には「生贄封じの仮面」や「王宮の勅命(エラッタ前)」を用意しなければなりません。しかし、「王宮の勅命(エラッタ前)」は当時制限カードであり、「生贄封じの仮面」に至ってはサイドデッキにすら普通は入らないほどピンポイントなメタカードです。
加えて、キーカードの「魔導サイエンティスト」自体が高い攻撃性能を備えていたため、状況によっては普通にビートダウンを行っていくことすらできます。「混沌の黒魔術師(エラッタ前)」についても同様であり、「モンスターゲート」から飛び出してきた2800打点に殴り倒されるゲーム展開も決して珍しいことではありません。
つまり、この【サイエンカタパ】は先攻ではもちろん、後攻スタートでもまともに戦えるほどの抜群の安定感を誇っていたということになります。もはや明確な弱点が「手札事故」程度しか残っておらず、真っ当なデッキが対抗できる次元の強さではないことは明らかです。
こうしたゲーム面の被害だけでなく、対人的な面に現れた悪影響も決して少なくありません。たとえ【カオス】を使っている場合であっても、初手で「魔導サイエンティスト」を召喚した瞬間に【サイエンカタパ】だと思われて複雑な顔をされるなど、コミュニケーションツールとしても多くの問題を生み出してしまっています。
これまで汎用パワーカードとして名を馳せていた「魔導サイエンティスト」は極悪コンボパーツに変貌を遂げ、【サイエンカタパ】の代名詞として悪名を轟かせていくことになりました。
【まとめ】
「天空の聖域」の販売、もとい「モンスターゲート」の参戦によって起こった出来事は以上となります。
開発側の努力空しく、僅か一ヶ月で【サイエンカタパ】が復活してしまうなど、極めて致命的な問題が発生してしまった次第です。元々「モンスターゲート」自体が悪用されやすいカードではありますが、その初仕事は【サイエンカタパ】で務めることになりました。
個人的な話にはなりますが、私が一時的に遊戯王から距離を取ったのもこの頃だったと記憶しています。元々、時期的に受験の準備を始めていた関係でショップに顔を出す頻度もかなり下がってはいましたが、【サイエンカタパ】の流行が気持ちを切り替えるきっかけになった部分はあったのかもしれません。
悪名ばかりが轟く【サイエンカタパ】ではありますが、少なくともプレイヤーから余計な時間を奪わずに済んだという意味では、まだしも救いようがあった……と、言えないこともないのではないでしょうか……?
ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
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