おろかな埋葬 弱小カードから制限カードに成り上がるまでの歴史
・前書き
・第3期 先攻1キルデッキのコンボパーツ時代
・第4期 相性の良いデッキで時折使われるレベル
・第5期 墓地アドバンテージの概念が根付き始めた頃
・第6期 パワーカードの仲間入りを果たした瞬間
・まとめ
【前書き】
遊戯王OCGの中に、「おろかな埋葬」というカードが存在します。
①:デッキからモンスター1体を墓地へ送る。
自分のデッキから任意のモンスター1体を墓地に送る効果を持った魔法カードであり、遊戯王OCGにおける代表的な墓地肥やしカードとして非常に名高い1枚です。その圧倒的な利便性、汎用性の高さから現在では制限カードに指定されており、また今後もカードプールの拡大により相対的に強化され続けることが決まっている以上、この規制状況が緩まることは恐らく無いだろうと言われています。
しかし、そんな「おろかな埋葬」も誕生直後からパワーカードとして見られていたわけではありません。むしろ当時はどちらかというと弱い部類のカードと考えられており、精々一部のコンボデッキでのみ使われる「トリッキーなコンボパーツ」程度の扱いに甘んじていたことは事実です。
この記事では、黎明期から全盛期、そして現在に至るまでの「おろかな埋葬」の歴史について解説していきます。
第3期 先攻1キルデッキのコンボパーツ時代
「おろかな埋葬」が現れたのは第3期中頃、悪名高い【カオス】が猛威を振るう2003年8月上旬のことでした。
この頃は現在と比べて1:1交換の概念が極めて重視されており、カード1枚1枚の価値が非常に重いゲームバランスが成立していました。そのため、それを自分から失ってしまう「おろかな埋葬」は文字通り愚かなカードに過ぎず、通常のビートダウンデッキではまず使われないマイナーカードという扱いに甘んじています。
また、この時期は遊戯王OCG最凶の墓地肥やしカード「苦渋の選択」が現役を務めていたこともあり、墓地肥やしカードとしても弱すぎると見なされていた印象は否めません。というより、当時はその「苦渋の選択」ですら墓地肥やし能力が特別強いとは思われていない節があったため、「墓地アドバンテージ」の概念がそもそも浸透していない状況だったと言えるでしょう。
このように、ビートダウン界隈ではほとんど居場所がなかった「おろかな埋葬」というカードですが、反面コンボデッキ界隈においては当初から注目を浴びています。
その筆頭はやはり【デッキ破壊1キル】であり、これまでコントロール軸が主流だった【デッキ破壊】の新たな型として名を馳せていった形です。特に「サイバーポッド」を安定して墓地に落とせるようになった点が大きく、メインエンジンである「浅すぎた墓穴」が格段に使いやすくなりました。
また、黎明期特有の極悪コンボとして、「処刑人-マキュラ(エラッタ前)」とのシナジーも見過ごすことはできません。
「おろかな埋葬」を「処刑人-マキュラ(エラッタ前)」と組み合わせた場合、「このターン、自分は手札から罠カードを発動できる」と書いてあるとんでもない魔法カードに化けるため、非常に凶悪なワンキルパーツとして扱うことができます。このギミックは上述の【デッキ破壊1キル】ではもちろん、遊戯王史上最悪の先攻1キルデッキとして知られる【サイエンカタパ】においても一時期は使われていたほどです。
その他、上記の面々には知名度や影響力で見劣りしますが、同じく先攻1キルデッキの一種である【宝札マンティコア】を成立させたことも「おろかな埋葬」の実績の一つに数えられます。
事実上「暗黒のマンティコア」6枚体制を作り出せることは非常に重要な意味を持ち、かつての【宝札エクゾディア】の後継デッキとして恐れられていくことになりました。
第4期 相性の良いデッキで時折使われるレベル
このように、「おろかな埋葬」は第3期においてはおおむねコンボパーツ、それも先攻1キルデッキのキーカードとして声がかかっていたカードであったことが分かります。
とはいえ、これはむしろ「おろかな埋葬」ではなく周りのカードが危険すぎたために引き起こされた事態です。実際、それを裏付けるようにカードプールの調整が進んだ第4期以降は「おろかな埋葬」も一時影を潜めています。
「おろかな埋葬」が再び表舞台に姿を見せたのは、「アビス・ソルジャー」の参戦を受けて成立した【アビス・コントロール】が環境に台頭した瞬間のことでした。
【アビス・コントロール】は「キラー・スネーク(エラッタ前)」を素早く、かつ安定して墓地に落とすことが何よりも重視されるデッキであり、その点において「おろかな埋葬」は最高の仕事をこなします。もちろん、第3期の頃のようにそれ自体が勝利に直結するような役割ではありませんが、デッキの中核をなすキーカードを務めているという意味では負けず劣らずの重要度です。
とはいえ、それ以外のデッキにとっては特別役に立つカードではなく、「おろかな埋葬」もそれほど高い知名度を獲得していたわけではありません。どちらかと言うとマイナーカードだった「おろかな埋葬」を活かしたデッキという意味で【アビス・コントロール】の方が注目を受けていた印象です。
その後、【アビス・コントロール】が衰退してからは「おろかな埋葬」も同様に活躍の場を失い、数あるマイナーカードの1枚へと逆戻りしています。しかし、第4期終盤の2005年末頃に「黄泉ガエル」を擁する【黄泉帝】が台頭すると再び注目を受け、墓地肥やしカードとしての価値をある程度取り戻すことに成功しました。
以上のように、第4期の「おろかな埋葬」は一部の相性のいいデッキで使われることがある、という程度の扱いに収まっており、ある意味では前期以上にマイナーな立ち位置にあったとも言えるでしょう。
第5期 墓地アドバンテージの概念が根付き始めた頃
「おろかな埋葬」の評価が徐々に持ち上がり始めたのは、その誕生から4年が経過する第5期突入以降のことでした。
第4期最終盤に現れていた「森の番人グリーン・バブーン(エラッタ前)」により【バブーン】が成立したことを皮切りに、「おろかな埋葬」の墓地肥やし能力の優秀さが次第に浸透していくことになります。元々【バブーン】自体が出張ギミックとして有用だったこともその後押しとなり、いわゆる【バブ】系デッキの出張パーツに近い扱いを受けていた形です。
そうした「おろかな埋葬」の再評価の兆しが決定的となったのは、2007年における【ライダー】系デッキでの躍進だったのではないでしょうか。
【バブーン】との複合デッキである【バブライダー】はもちろんのこと、【D-HERO】との複合である【デステニーライダー】などでも準必須級カードとして声がかかるまでになり、かつてのマイナーカードという評価を遂に払拭しています。この頃になると「墓地アドバンテージ」の概念が明確に根付いていたこともあり、ディスアドバンテージを負ってでも墓地肥やしを狙う意味が生まれてきたことによる結果です。
その他、上記のようなピンポイント墓地肥やしからはやや意味合いが逸れますが、「ダーク・アームド・ドラゴン」を擁する【ダムドビート】の台頭も無関係ではありません。
基本的に「おろかな埋葬」最大の魅力は「狙ったカードを確実に墓地に落とせる」ことにありますが、単純に「ダーク・アームド・ドラゴン」の召喚条件を整えるための「墓地枚数調整用のカード」としても見ることができます。もっとも、そうした使い方ではやはりアド損がある以上は純構築の【ダムドビート】で使われることは少なく、活躍の場は【デステニーダムド】など一部の型に限られていました。
いずれにしても、この時代において「おろかな埋葬」の評価が急上昇したことは間違いありません。
その結果、第5期最後となる2008年3月の制限改訂で遂に準制限カード指定を受けることになり、これをもって「おろかな埋葬」は遊戯王における代表的な墓地肥やしカードとしての地位を確固たるものにしたと言えるでしょう。
第6期 パワーカードの仲間入りを果たした瞬間
そんな「おろかな埋葬」を取り巻く状況は、第6期突入を境に急激な加速を迎えます。
マスタールールの導入とともに【シンクロ召喚】が実装され、これ以降OCG環境は激しいインフレの波へと飲み込まれていくことになりました。その流れを受けて【ライトロード】や【シンクロアンデット】などの「墓地肥やしが戦術に直結する」レベルのデッキが次々と台頭、「墓地アドバンテージ」の概念は過去に類を見ないほど重要性を増していきます。
これにより、「おろかな埋葬」のカードパワーも凄まじい勢いで暴騰を迎え、今までの評価は何だったのかというほどの一段飛ばしの躍進を遂げていった形です。もはや墓地利用ギミックを標準搭載するデッキは珍しいものではなくなり、むしろ墓地利用を狙わないデッキが「墓地メタが刺さらない」という理由で評価されるまでになっています。
そうした環境の激変により、「おろかな埋葬」は2010年3月の改訂でとうとう制限カード指定を下され、名実ともにパワーカードの仲間入りを果たすことになりました。それから10年近くが経過する今現在でもその位置から動いておらず、また今後も動くことはないだろうというのは記事の前書きに記した通りです。
かつてのマイナーカード扱いからは考えられない大出世であり、カードプールの変化によってその評価を一変させた好例と言えるのではないでしょうか。
【まとめ】
「おろかな埋葬」の大まかな歴史については以上となります。
誕生当初はカード単体では全く注目されておらず、コンボパーツとしての役割が中心のマイナーカードでしたが、時代が進むにつれて評価を徐々に上げていき、やがては遊戯王屈指のパワーカードとして名を馳せることになりました。今では「おろかな埋葬」が弱いカードとは口が裂けても言えない状況であり、このカードの強さを理解できれば初心者卒業と言われることさえある偉大なカードです。
現在では数々の下位互換あるいは相互互換カードが刷られる立場に置かれており、そうした状況からも「おろかな埋葬」の絶大な知名度の高さが窺えるのではないでしょうか。
ここまで目を通していただき、ありがとうございます。
ディスカッション
コメント一覧
おろかな埋葬に近い推移を辿ったカードが現代だとテラフォーミングなのかな?とふと思いました
いまテキストを見ると緩和はあり得ない効果に見えるので、割と最近まで無制限だったのが驚きです
コメントありがとうございます。
昔のテラフォはどちらかというとファンデッキのお供のような存在でしたが、今となってはもう救いようがない感じで、サーチ系のカードは遅かれ早かれ規制される運命にあるように思います。
個人的には、次のインフレの波が来るとしたら恐らくは装備魔法だと考えていますので、ひょっとすると「アームズ・ホール」や「パワー・ツール・ドラゴン」辺りも5年後には規制されているかもしれません。
とても面白い考察、毎度楽しく読ませていただいております。
フィールドは、以前は張り替えられただけで失われたり、場合によっては
相手を利する可能性があったりと、構造的な問題もあったのではないかと思います。
現在では、フィールドゾーンに発動できる永続魔法と言っても差し支えのない
状況になってきていると思いますし、効果そのものがインフレしていることも
あるのではないかと。
正直なところ、環境など詳しくないもので、エンシェント・フェアリーが
禁止される状況になるなど思ってもみませんでした。
ターン1のないサーチやリクルートなどは、いずれそうなるものなのかも
しれませんが……。
装備も構造上の欠点があるからこそ許されているところもあるかもしれませんが、
儀式とリリーサーのように、環境が変われば、構造上の欠点がある動きですらも、
壊れた何かに変貌していくのかもしれませんね。
コメントありがとうございます。
フィールド魔法が1枚しか存在できないルールはフレーバー的には好きでしたが、ゲームバランス的には調整が難しいルールだったのかもしれないという印象です。かつてギアタウン張り替えで遊んでいた時代を懐かしく思います。
個人的な感覚で恐縮ですが、いわゆる「このカードの発動時の効果処理として~」というテキストが出始めた時がインフレの兆候と考えています。実際、最近は「焔聖剣-デュランダル」などのサーチ効果持ちの装備魔法もぽつぽつと現れ始めていますし、そろそろ装備サーチ全盛時代が幕を開けるのかもしれません。
おろ埋が評価されなかった時期、懐かしいですね。
黄泉帝が出る前に曲がったおろ埋が1枚100円で束になっていたのを思い出します。
アムホが出て早埋が規制され死者蘇生はそのままだったりプレイヤーの熟練とカードプールの増加でコンボが激増した時代だったなと
コメントありがとうございます。
おろ埋はアビスコントロールで使ったのが始まり(真っ当な運用法という意味では)だったように思いますが、キラスネを墓地に落とす動きが想像以上に強かったような記憶があります。と言っても、その頃も実質キラスネ専用カードという扱いだったことは否めず、やはり今でも遅咲きのカードという印象がついて回るカードです。